2章4話:地獄の班決め
「〜〜〜〜〜〜zzz」
「寝るな起きろ月潟ぁ!」
「……? ふぁあぁ、あ、おはよー先生。えっと、朝4時になにしてるんだい?」
「今は! 夕方4時じゃ、ぼけぇえええ!!!」
月潟琵樹は美少女だ。
100人に聞けば100人がそうだと返答するレベルの美少女だ。その不思議ちゃんな性格と百合好き宣言をしても尚、その人気っぷりはすごかった。主に男子からの。
「マジで天使……」
「なんかネットミーム使ってるけど寝ぼけ顔かわええ」
「でも女が好きなんだろ?」
「そーゆーやつに男を教えるってシチュが萌えんだろうがよ!」
ガンガンに燃えそうな発言ありがとうございました。まぁ男に人気が出そうなのはわかる。うちの高校にはとにかく女子が少ないし可愛い女子はもっと少ない。男子が彼女に注目するのは至極自然なことだ。
故に一方で女子からは凄い警戒をされている。月潟に対して、ゴミを見る目で睨んでる女子もちらほら。
北湊都市はこれまで説明してきた通りに特殊な街で、男性同士のカップルに対して忌避感がない。寧ろ『街の花嫁』などという制度で推奨されているレベルだ。それは男性比率が高い街での性的娯楽の意味合いが強い。
では一方で女性同士のカップルはいるのか、といえば一切見ないのが北湊都。この歪さは何なのだろう。近年では同性愛に対する見方が変化しつつあるのだが、一部だけが許容される社会というのもまたそこ知れぬ歪さを感じてしまう。
「琵樹は天然だよなー!」
「そう? 私ただ眠ってただけなんだけどなー」
「琵樹、授業ちゃんと受けなきゃダメじゃない!」
「ぬふふ! 夏葉もちょっとウトウトしてたけどね、可愛かったなぁ! 写真撮ってあるよ」
「なーーッ!? 消しなさいニコラ!」
海知たちとも既に打ち解けている。ていうか名前呼び捨て早えよ、ムカつく。
「ぬふふ、ほの囮、何睨んでるの? 愛しの海知を取ったりなんてしないよー!」
「……は? 睨んでないけど」
「凄い睨んでたよ。前髪で目が隠れてたからわかりづらいけどさ。やっぱり嫉妬ボルケーノ! って感じ!? ねぇねぇねぇ!」
「あー、はいはいボルケーノボルケーノ」
ぶっきらぼうに返す僕に、月潟はまた近づいてきた。
「犀潟くんもこの『いつメン』とかいうののメンバーなんだよね? それじゃお話ししようよ」
「違う、断じてコイツらのいつメンではない……」
「ふーん。ねぇ、目、合わせてくれないの?」
「……………」
「図書館で受け止めてくれたときは合わせてくれたのに」
「ーーーーッ! 今ここでそれやめろ……本当に取り返しのつかないことになっても知らないからな?」
月潟が首を傾げる。
僕に近づく女子はもれなくニコラが何らか干渉をするだろう。恐らく月潟とて例外ではあるまい。……何となく、この子が酷い目に遭うところを見たくない。凄まじい罪悪感とそうさせてはならないという義務感が何故か僕の中に同居していた。
「ぬふふ、琵樹ちゃん、ほの囮と話してたのー? ダメだよー、ほの囮には好きな人がいるんだからー!」
「…………へぇ」
「ほら、海知がしょっちゅうほの囮の方見てるでしょ? つまり、そゆことさ!」
一瞬、月潟の目が冷たく凍りついたように見えたのは気のせいだろうか。すぐにほわほわした表情に戻していたからニコラも気づいてなさそうだけど。
いつものように萌え袖で口元を隠し、観察するように僕たちを見た。
「つまり、海知くんはほの囮くんが好き、ほの囮くんも海知くんが好き。2人は両思いなんだね〜」
「そうそう! ぬふふ、この良さ、理解できる?」
「うーん、百合は好きだけどBLは、うーん。なんかオススメの本とかある?」
「私オススメ漫画あるわよ!」
夏葉が物凄い勢いで本を取り出したのでニコラでさえ少し引いていた。あー、出た『男同士のいろはにほへと』、僕の去年の誕プレだ。
あんなものでも片思いしていた女子から貰ったものなので大事にしていたのが1週間前までの僕だ。今? ああ、あの紙質で窓拭くと凄い汚れ取れるんだぞ。知ってたか?
「静かにしろー! ほら、LHRをはじめるぞ」
昨日に引き続きLHRが始まる。入学1週間でLHRやりすぎだろ。まぁこの時期はイベント盛りだくさんだから仕方ないか……。
さて先生が持ってきた議題は林間学校の班決めだった。そういえばそんな行事あったな、完全に忘れていた。
林間学校。隣の市まで行って飯盒炊爨やレクリエーションを行う行事であり、入学して最初の行事な為に様々な研修も兼ねている。
これによってクラス仲は深まる……というのが建前で、実際はスクールカーストの確定が行われる。つまりクラスに馴染む気のない僕にとっては死ぬ程どうでもいい行事である。
だが他の連中はそうは考えない。クラスでどう自分の立ち位置を作るか、誰と仲良くするか、打算的な人間関係構築の壮絶な争いが始まるのである。
「○○ちゃんと組みてぇな」
「○○はつまんねぇし、俺らだけで組もうぜ?」
なんて囁き声が既に後ろの方から聞こえつつある。一方で騒ぐ奴は何も考えずに騒いだりもする。
「うぇーーーーっい! 来ちゃった!? 来ちゃったべ!? 林間学校ぅ!」
「ひゅーーー!」
「アバンチュール求めちゃおうぜ!」
このクラス1-1にも既に派手グループと地味グループなる光景が広がっているらしい。
派手なのはあっちでわちゃわちゃ騒いでる連中。もれなく海知がいるし、ニコラと夏葉、月潟もいる。海知はみんなを引っ張るリーダー役みたいになってて、その周りに人が集まってる感じだね。
そもそも北湊都高は女子が少ない。だがしかしこのクラスは何故か他より女子が多く、昨日入ってきた月潟を含めて11人もいる。とはいえクラス全体が41人なことを考えると実に1/4しかいない訳だが。
「飯盒炊爨のグループは8人1組で5つ作れー。その中に女子は2人、男子は6人入ることになる。それが決まりだからしっかりやれよ」
先生がやる気なさそうに言う。
さてこういう班決めは地獄のイベントなのだが、今回は正直どうでも良い。何故なら僕は色々気負う必要がない。流れに身を任せよう。
「その前にセンセー! ほの囮ちゃんは男子と女子どっちの扱いになるんですかー!?」
……バックれよう。マジでバックれよう。クラスメイトの視線が全部こっちに飛んできた。
「ほの囮ちゃんが女の子だって言っても、実際身体は男な訳だし……」
「でも男子のところ可哀想じゃない?」
「嫌よ! 男を女子部屋に入れるのなんて!」
ほら、僕の知らない所で議論始まってる。
「ドユコト? 何を揉めてるの?」
「あ、えっと、後で話してあげるわね?」
状況を飲み込めていない月潟に、夏葉が苦笑いしながら耳打ちしていた。おいやめろ変なこと吹き込むな。
まぁこういうのは下手に逃げ回るからよくないんだ。この場合はさっさと自分から言ってしまった方が得だろう。
「男子のとこでいいです。それでいいよな? ニコラ?」
「へ? あ、ああ! ほの囮がそれで良いなら! ぐふふ、男子部屋に隠しカメラ入れなきゃ。ほの囮のメス堕ちシーン絶対撮るぞー」
この世界は彼女のゲーム盤。ならニコラが喜ぶ舞台設定にしてやるべきだ。それで丸く収まる。
いやまぁ男子の方の視線を考えると地獄だが。
「犀潟が、俺達と同じ部屋……」
「俺スク水持ってくわ」
「なら俺はメイド服」
「巫女服も捨てがたい」
おい、僕に着せるコスプレの相談をするんじゃない。あと多分その巫女服は僕の所有してるあれよりペラペラだと思う。
「そ、それならほの囮は俺と同じ班にする! その方が安全だ!」
「そうね! 飯盒炊爨班は海知のとこにしましょう!」
「えー! お前居たらほの囮ちゃんに手ェ出せねえじゃん!」
「だからだよっ!」
「ぶーぶー!」
「俺もほの囮ちゃんと仲良くなりたい!」
海知が何か言い出したけどもう後はどうでも良いので借りた本を読み出す。
すると茶髪のチャラ男がこっちに来て本を取り上げやがった。
「なーなー、ほの囮ちゃん! 本読んでないで話し合い参加しよーぜー? みんなほの囮ちゃん仲良くなりてーんだわ!」
「早く返せ」
「つれないなぁ。仲良くしよーぜー? ほの囮ちゃーん」
「つかどいつもコイツもほの囮ちゃんって呼ぶなばか! さんをつけろよデコ助野郎!」
「え、そっちなん?」
「はい回収」
茶髪チャラ男から本を取り返し、席に戻る。何事もなかったように本を読み始めると、茶髪チャラ男は白けたような表情をした。
「はっ、冷てー反応」
言ってろ。
はてさて、結局僕は海知の班に入ることとなり、そのメンバーは男子が僕、柏崎海知、茶髪チャラ男、坊主頭のチャラ男、なんか髪の毛ツンツンのお調子者キャラ、委員長っぽいキャラ……なんかチャラ勢力強ない? 因みに女子はニコラと夏葉、そして女子が1人余ったということで月潟も一緒だった。
「よろしくね♪」
「………………」
それと、部屋については女子は10人組の1部屋、男子は10人組の3部屋だ。
つまり僕は他9人の男と同じ部屋で寝る羽目になる訳だ。嫌だ、嫌すぎる。
「ほの囮、珍しいね。自分から男子の部屋行きたいなんて! それに、クラスの場だといつも俯いて発言なんてしないのに」
「そう? 高校生なんだしそういう事もあるでしょ」
「……ふーん。その変化は困るんだけどな……まぁ、様子見か」
ニコラがなんか呟いてたけど聞かなかったフリをしてその場を去る。生徒会がどうのこうの言ってたけど、今日はもう疲れたので帰るわ。
「ほの囮! 一緒に帰ろう!」
「奇遇ねほの囮!」
「ほの囮くんも今帰りなんだ?」
「……………ゔぇ」
……待ち伏せを奇遇とは言わない。
図書館に本を返して新しいのを借りてくる間になんでこんなにゾロゾロとまぁ。
どうやら、僕の長い長い1日はまだ続くらしい。このひとときも油断できないクラスメイトたちによって。
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