2章3話:生存戦略
昨日夜遅くまで山の神のお仕事 (お化けごっこ)をしていたので、今朝はまた樹海から登校することとなった。あそこの布団の方がよく眠れるんだよ。
さて、先に教室について『北湊都の歴史』を読んでいると、ポツポツと生徒たちが教室に入ってくる。その中の1人、僕の元へと黒髪ロングの少女:赤泊夏葉が歩いてくるのがチラリと見えたので、本を閉じて机の中へと押し込んだ。
「おはようほの囮!」
「ん、おはよ」
赤泊夏葉は容姿が整っている。
元々女子が少ない学校で、尚且つずっと好きだった僕目線じゃなかったとしても目を惹く容姿の持ち主ゆえ、すでに何人も告白して撃沈していると聞いた。まだ入学1週間だぞ?
北湊都高校は女子が少ないから男子が年中性欲持て余しているみたいな話はよく聞くんだよね。まさかそんなお猿さんばかりじゃないとは思うけど。ない、よね……?
でもまぁ男子諸君の気持ちはわかる。
なんてったって何年も片思いを続けた相手だ。夏葉は可愛い。それは間違いない。ただその可愛さが色んな悪いところで掻き消されているだけなのである。
「ほの囮、どうして今日先に登校しちゃったの?」
「あー、僕自転車登校に切り替えたんだよね。楽だよマジで」
あ、そうだ。こいつら僕の家に押しかけてから登校するんだった。朝も自由がなかったことを思い出し、今の自由度の高さに感動してしまった。
「ていうか、夏葉たちって最近何人で登校してるんだっけ?」
「6人ね」
ほー、6人……は!? 6人!? なんでそんなにいるの!? 知らない間に柏崎ハーレムが増殖してる!
人数的にニコラと夏葉を除いて3人もの女子が海知に惚れてるってこと? 男子からのヘイトエグそう。
「なんか人数やばくない?」
「昨日海知が不良たちから女の子を助けたの。ほんと、誰にでも手を差し伸べちゃうんだから……ま、そんなところがかっこいいっていうか……」
あー、それで廊下で女子に囲まれてんのね。一部の男子たちは悔しそうに歯軋りしていたけど、なんかそれも主人公SUGEEEEE! のための演出にしか見えてこなかった。
このハーレムに夏葉も加わっているので、きっとかみさまに救われる前の僕なら憤死していたに違いない。
「おっ! ほの囮ー!」
海知が向こうで手を振っていた。知らないですねあんな陽キャハーレム軍団。
「海知呼んでるわよ?」
「夏葉行って来なよ。僕読みたい本があるの」
「え、そ、そう。そんなに気になる本なの?」
「まぁね」
「ふーん、どれどれ……『北湊都の歴史』って、歴史のお勉強?」
「そんな感じ」
海知を無視するのはアレだが、流石にあのハーレムの中に入っていく勇気はない。まぁ昔の僕でも多分いかなかっただろうしこの辺は不自然ではないだろう。
渋々といった表情で海知のもとへと向かう夏葉。やはり何も思わない。今僕にとって信じられる存在はかみさましかいない。必然的に夏葉への執着は消えていた。男って単純だなと自嘲気味に笑う。
けれどその一方で僕の心を騒がせる存在もいる。
「おはよー、おはよおはよー」
何故か頭に幽霊がつけてそうな三角巾をつけて登校してきた変人:月潟琵樹のことである。恐らく海知と一緒に登校してきた女子の1人は彼女だろう。
彼女が海知たちと登校してきた事実がなんか凄いムカつく。かみさまの顔をしてニコラに取り込まれてるのがなんか凄く嫌だ……いや、月潟はニコラに取り込まれていないんだっけ? だとしたら尚更ムカつくんだが。
「おはよ、犀潟くん」
……相変わらず近い。距離の詰め方バグってんのか。
「…………海知から名前聞いたのか」
「まぁクラスメイトだからね。名前覚えるのは普通のことじゃない?」
「普通、ね。それじゃその普通じゃない格好はなんなの?」
「ああこれ? どうやら北湊都には積極的な幽霊さんがいるらしいから、そのファンの証みたいな?」
ひゅーどろどろ、とおどけたように笑う。口元を隠す仕草は確かに和服の幽霊といったところか。
しかし意外と情報が早いな。まぁ何でも共有したがる田舎町だし、大きなニュースはその分伝達も早いか。
「あ、知ってる知ってる、『山の神』の怪談だろ?」
「え、なにそれ?」
「4組の八尾が見たってんだよ。真っ白な着物を着た女の幽霊。真っ黒な髪に彼岸花の髪飾りが付いてて、顔は包帯で巻かれてるらしいぜ?」
「なにそれこわ! 本当にそんなのいんのかよ?」
「まぁ噂だしなー。本当にいるかはわかんねー。なんかの見間違いでもおかしくねぇし」
まぁ初めはこんなものだろう。ここからじわじわと怪談を広げ、『山の神』の人物像を固定していく。長い道のりだ。
それまでは学校で静かに守りに徹するのが上策。
そう思ってひとまず月潟から距離を取り、本を読み始める。そんな僕をニコラは不審な目で見ていたので、やはりまだ僕を自身の影響下に置いていると考えているのだろう。
しかしまぁ、恐らく今日にでも何かしらのアクションは取ってくるだろうな。海知のラブコメに僕を引き摺り込む為に、あらゆる手段を使ってくると予測できる。早ければ昼休みにでも……。
「ほの囮、生徒会入らないか!」
「却下」
「まだ説明してないのに断るなんてらしくないな!?」
昼休み。
海知とニコラと夏葉がニコニコしながら席にやって来た。あー、この席が使いたいんですね、どうぞ僕他の場所で食べるんであはははは、なんて言える状況じゃない。
しかしなんだって? 生徒会? 学園ラブコメに欠かせない要素の1つこと生徒会?
入学当初から色んなとこで名前を聞くから、それなりに権力者の集まる空間と化しているのがなんとなくわかる。一応歴史の長い我が校において、生徒会もまたその権威の象徴である。
「なんか目立つ連中の巣窟と化してるらしいじゃん生徒会。ていうかそもそも生徒会にそんなに人数必要なのか?」
「うちの高校は大きいからなぁ。1年生からイベント運営に携わったりする人手が必要なんだって」
ああ、いわゆる生徒会の下部組織みたいなのに所属してるってことか。生徒会っていうよりイベントサークル、イベサーだな。
「ていうか、もうほの囮は部員名簿に記入してあるからね! ぬふふ!」
「……左様で」
「お、おいニコラ! そんな勝手なこと!」
最初から入れる気満々だったんだろう。まぁ予想はしてたから海知みたいに特に声を荒げたりはしない。ムカつくけど。
「今は学年別交流会の準備とかしてるんだー。放課後、ほの囮来るよね?」
なんで当たり前のように放課後の予定決めるんだよ。帰らせろよ家に。
「今日はパス。気が向いたら行く」
「今日は何か用事あるの? 最近ほの囮、姿を見かけないんだよね。なんで?」
「さぁ? 友達と遊んでる、とか?」
敵対はしないが恭順もしない。付かず離れずの態度を一貫して取る。
「ーーッ!? ねぇ、友達って誰かな? ボクも"仲良く"なりたいなぁ」
「お、俺も仲良くしたいな。ほら、ほの囮に友達なんて珍しいじゃないか。ほの囮の友達なら俺たちも仲良くすべきだと思うし、ああ、絶対その方がいい」
「そうよね、私も気になる。ほの囮、私たち以外に友達居ないし、ちゃんとほの囮のことを大事に思ってくれる人なのか気になるもの!」
ニコラ、海知、夏葉の全員が反応した。
それ友達の話だよな? 恋人とかそういうのじゃないんだよな?
そうやっていつもいつも僕から友達という存在を奪ったり、そもそも出来ないようにしてきたのによく言うよ。その感情一体なんなんだよ。
「あはは、ジョークジョーク!」
怒りを抑え込んで明るめに返答する。内心は怒りでどうにかなりそうだった。
「……ほの囮、真面目に答えて」
「いや逆になんでそんなマジトーンなの?」
「ほの囮が可愛いからに決まってるでしょ!」
「は?」
「最近やけに可愛くなったし、私にとってほの囮は妹みたいなものだから、友達が出来たなんて心配するに決まってるわよ!」
ええ……。
どういう心配だよ。お母さんかよ。いやお母さんだとしても友達だぞ? 恋人ちゃうんやぞ? 過保護もここまで行くと絶滅危惧種保護してるレベルだぞ。
「確かに最近のほの囮はその、マジで可愛い……。女子にしか見えない。だからほの囮に近づく奴に下心がないかを確認しないと!」
「うわキモ」
あ、やべ。声に出た。
「男か女かだけ教えて!」
「だからジョーク! いない、僕お友達いません!」
自分で言ってて悲しくなって来たよ! なんでかな、あはははは!
「う、嘘だ! ほの囮なんか変だもの!」
「あー、もう居ないって!」
『友達』は禁句だったか。不用心だな犀潟ほの囮!
「ほの囮なんか隠してるでしょ!?」
「僕トイレ」
「じゃあ俺も!」
なんでついてくるんだよ!
「なんで個室なんだ!?」
「僕の自由だろうがぁ!」
キレそう。ていうかこれはキレていい。
なんか個室の前で延々に待ってるから流石に個室から出て抗議する。キモすぎる。
「おい海知、いい加減にしろ。限度ってものがある」
「……すまん。でも、ほの囮が素直に話してくれないから」
僕に責任を転嫁するな。
「俺……その、お前のこと親友だと思ってる!」
「あーはい僕も思ってる思ってる。だからそこ退いて」
「お前の隣に立っていたいんだ。他の誰にもこの座は譲りたくない……」
「左様で。でも進路は譲れ、邪魔」
「あっ……」
くそが。そもそもお前僕以外にも沢山友達いるだろ。これが思考までニコラに歪められたものの末路か。
海知からどれだけ言葉を尽くされても、僕からしたらニコラに利用された可哀想な奴という感想しか出てこない。
「ダメだ、全然ニコラに従ってるフリができない……」
このクソみたいなゲーム盤の生存戦略的にはそうすべきだと分かってる。けれど彼らの態度がそうさせてくれない。諾々と従っているだけじゃ僕の心が擦り切れていく。どうすればいいんだよこれ……。
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