1-3 ちょっぴりの勇気
パチパチという何かが燃えているような音が聞こえ、アウローラはハッと目を覚ました。急いで身体を起こし、辺りを見回す。まだウィリーデの森の中であることは確かだった。だがすっかり日が暮れていて、周りは暗く、目の前で赤々と燃えている炎しかよくわからない。
「炎…… 誰が…?ま、まさか……ゆ、幽霊…!?」
アウローラがビクビクしていると、
ふっ、ふふ、、というなんとか笑いを堪えようとしている声が聞こえた。
アウローラはますます縮こまる。幽霊だと信じきっている。アウローラは近くに立てかけられていた杖をすぐに手に取るとギュッと握りしめる。今、頼りになる物が杖しかないのだ。
「ゆ、幽霊でも、私、容赦しません…!」
そしてガサガサと近くの茂みから音がして、一人の青年が出てきた。
アウローラは杖を持ったまま固まった。そして瞬時に頭の中で情報が爆速で回る。
人間の男の人。めちゃくちゃ明るそう。
つまりこんな人見知りの自分とは正反対。
アウローラは嫌な予感しかしてこなかった。
青年は面白そうに言う。
「ごめんごめん!あんまりにも君の反応が面白すぎるからさ、つい隠れて見ていたんだ。悪気は無いんだ、ごめんね。あと、幽霊は多分炎をつけれないと思うよ?」
「っ!!わ、悪気しか、ないですっ!!悪気ない人は、そんな風に、隠れません!」
アウローラは必死に言葉を紡ぐ。
「な、何が、目的ですかっ……」
青年は一瞬きょとんとしてすぐになぜこの森にいるのかを説明した。
「ごめんね、まずは先に君に怪しまれないようにきちんと説明しなければならなかったね。僕はルーカス・ルミニウス、新米剣士だ。この森に来たのは本当にたまたまで、冒険者協会の小さな依頼でここに来たんだ」
「剣士……依頼、ですか……?」
「そう。最近魔獣がこの森に出たという報告が近隣住民から入っていて、その調査のためにここにね。
そうしたら君が魔獣に襲われていたから助けたってわけ。魔術師が防戦一方の低級魔獣ってことは、剣が効くと思って割って入ったんだ」
それを聞いたアウローラは素直にすごいと思った。あのわずかな間でそこまで考えて行動できる人はなかなかいないとアウローラでもわかる。
「その……助けていただきありがとう、ございました…」
「困ってる人を助けることが剣士の務めだから、それを果たしたまでだよ」
「そう、ですか……すごい、ですね……」
眩しすぎる。アウローラはそっと目を伏せ、思う。
自分には人のことを考える余裕なんて無い。いつも自分のことだけで精一杯。
こんな風に私も誰かの役に立てれればいいのに。
こんな私でも誰かの声に応えることができるようになれるといいな。
でも分かっている。自分には不可能だ、こんな役立たずでどうしようもないやつは、と。
思わず涙が出てきそうになったのでアウローラは目元を擦り、無理やり微笑む。
「ありがとう、ございました…」
そして杖と鞄を持ち、立ち去ろうとしたら肩を掴まれた。振り返ると、ルーカスは言う。
「あのさ、君、冒険者協会に入ってないんだろう?」
「はい…そうですけど」
アウローラが不思議に思った次の瞬間、ルーカスはとんでもないことを言った。
「…ならさ、僕のパートナーになってくれないかな?」
十五秒ぐらい時が止まったように感じた。草花の風の揺れも、火の動きも。まるで大陸中が止まったように。
「……………え?」
ルーカスは困ったような顔で、頭をかく。
「僕さ、冒険者協会に所属しているけどまだパートナーがいないから一人で依頼引き受けてるんだけど、やっぱり一人だけだと簡単な依頼しか引き受けられないことが多くて。
ずっと探してたんだ。優秀な魔術師を」
それを聞いてアウローラはわなわなと震えだし、全力で首を振る。
「む、むむ、む、む、むむむ、無理、む、無理ですぅぅぅ!!!!」
ルーカスはジリジリと距離を詰め、アウローラはジリジリと後退り、トンッと背中が何かに当たる。振り向けば太い幹の木。
アウローラ、逃げ場無し、大ピンチ。
「あ、あわ、あ、あわわわ、ほ、本当に、無理っ…なんですぅぅぅ」
もう半泣きのアウローラを見てルーカスは不思議に思う。
「なぜだい?君はさっき僕が見ていただけでもとても強い魔術師だったような気がするんだけど。詠唱が僕には聞こえないぐらい短縮させれるのだろう?僕は魔法のことはよくわからないけど、なかなか見たことないよ。そこまで短縮できる人を」
(ヒィぃぃ…!違うんです!違うんです!短縮じゃないんですぅ!詠唱してないんですぅ…!)
けれどこのことを言える勇気などさらさらないアウローラは震えるだけ。
そんなアウローラを見ていたルーカスはアウローラの目線に合わせてしゃがむ。
「…僕は君が何をそんなに恐れているのかはわからない。だけど、これだけは言わせてほしい。僕には君が必要なんだ。対等に隣に並んで歩みたいんだ」
その穏やかな声を聞き、眼差しを見てアウローラは唇を噛む。そして再び涙が滲んだ。
「必、要……対、等………」
初めて言われた。
今までの人達はみんなアウローラの魔法しか見てなく、アウローラ自身を見ようともせず、
もっとできるだろう。
お前をパートナーにした理由を考えろよ。
という失望と嫌煙した言葉を容赦なく浴びせた。
(もう一度……もう一度だけ……信じてみても、いいの、かな……)
アウローラは顔を上げる。そして震えながらも、覚悟を決めて頭を下げた。
「よ、よろしく、お願い、しまふっ!」
(か、か、噛んだぁぁぁ!!)
うぅ、と項垂れているアウローラを見てルーカスはとても面白そうに笑った。
「ふっ、ふふ、あははっ!!うん、よろしくね。小さな魔術師さん」
「か、揶揄わないでくださぃぃ………そ、それに、私、魔術師じゃなくて…〈魔法使い〉です……」
「え?…えぇ!?君、魔法使いだったんだ……てっきり魔術師かと思ってたよ。その…まだ魔術師養成のための学校にも行ってないのかと……」
ルーカスはアウローラの爪先から頭のてっぺんまで見ながら言いにくそうに言う。
ルーカスが思ってることに気づいたアウローラは震えながらも恐ろしい予感がし、恐る恐る聞く。
「る、ルミニウスさん、は私のこと、一体何歳だと思ってるんですか…」
「え?んー、、十二歳?」
それを聞いたアウローラはよろよろと崩れ落ちそうになった身体を木の幹でなんとか支える。
「ひ、ひひ、ひ、酷い、ですっ!!わ、私は十七歳ですっ!!り、立派なレディ、ですっ!」
プンスカと必死に言葉を紡ぎ抗議する目の前の少女の年齢があまりにも意外すぎてルーカスは思わず笑ってしまう。
「そうだったんだ、ごめんね、レディ。なら僕の一つ年下だね。よし、じゃあ、まぁ気を取り直して、よろしくね。僕のことはルーカスって呼んで」
差し出された手をアウローラはそろそろと握り返した。
「よ、よろしくお願いします……ルーカス、さん…
アウローラ・フローリス、ですっ」
その名前を聞いてルーカスは何かを思い出した。そして目を丸くした。
「フローリス、って……もしかして、〈アルテミナ〉の天才…!?」
そう呼ばれた途端、アウローラはこの世の終わりのような顔をした。
「だ、だだ、だ、だ、だだだ、誰がそんなことをっ…!?」
「うーん…みんな?」
アウローラはもう頭を抱えながら身を捩った。アウローラはアルテミナ在学中に魔術師を飛び越えて魔法使いになったため、即卒業し、それ以来ずっと引きこもっていたため、市井の噂を知ってることなど無に等しいのだ。
「ひぃぃぃぃ!!!天才なんかじゃ、ないんですぅぅぅ!!!人違いですぅぅぅぅ!」
ルーカスは愉快そうに距離を詰め、アウローラの顎をくいっと少し上に向かせた。
「まぁどっちでもいいじゃないか。僕にとって君はとても大切なパートナーなんだから」
とルーカスはその高い顔面偏差値で迫り、キラキラという効果音が鳴りそうな言葉でアウローラに語りかける。
普通の街の女の子達ならキャアキャアと黄色い声を上げかねないだろう。
だが、この天才魔法使いは
「はぅっ……………」
________________バタンッ
急に距離を詰められ、ものすごく久しぶりに知らない人とたくさん話しすぎたため、
またもや失神したのである。
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