学園生活2

「やっほーニザール。また何か考え事?」

次の講義に向かう途中、1人の学生が話かけてくる


「…エレン。あぁ、うん、そうだな。この世界の”力”の在り方について考えていた」

「…また何か難しいこと考えてるね…私にはよくわからなそう」

そういうとショートヘアーの彼女は屈託のない笑顔で笑った


彼女の名はエレン。自分と同じ孤児の1人だ。

元々、地下街の近い区域に住んでいたこともあり、この学園に入る前からの顔見知りだ


「次、戦闘訓練でしょ?やだなぁ。私あの禿苦手なんだよね。」

そういい不満そうに口を尖らせる。

「別にお前は、あの教師と馬が合わないだけだろう。身体を動かすことは嫌いじゃないだろう?」

「まぁ、それはそうだけどー…」


彼女は魔力の素養はからっきしだったようだが、それを補って余りある素晴らしい身体的な素養を持っている。

身長は平均的な女子より大きく、自分と比べても遜色ない

身体は細身ながら、その内には上質な筋肉が詰まっており、見かけからは想像もつかないほどの膂力を秘めている。


加えて、彼女の一番の武器は、その身体のしなやかさだ

柔軟さと強靭さを兼ねそろえたその身体は効率的に力を分散・伝達させる。

その技量に優れた彼女は、単純な筋肉量以上の暴力を発揮する

初めて彼女が実践訓練の講義を受けた際、侮った男子を訓練用の大剣でぶっ飛ばした話はいまでも同級生の間では語り草だ

学園で技量を磨いた彼女は、今では学園でも上位の実力者だ


「でもさぁ、あいつ大して強くも無いくせにあからさまに特定の学生贔屓してない?

 ニザール、めちゃくちゃあいつに目つけられてるでしょ?」

「別に、あいつに始まった話じゃないさ。

 忌子に対する扱いなんて誰でも似たようなもんだろう?」

「まぁ、それはそうなんだけど…本当、私がぶっ飛ばしてやれればいんだけどね」

「馬鹿言うな。そんなことしてみろ。間違いなく翌週には”卒業”だ」

「分かってるよ。けど、これ以上ニザールへの扱いが悪くなるようなら、

 全然私は手が出るからね。」

「分かったよ。どうせ僕も数か月後には卒業だ。

 せいぜいこれ以上目をつけられないように努力するよ」

そういって分かりやすく肩をすくめてみる


エレンは、少し悲しそうな顔をしてこちらを見つめてくる

「…ねぇ、ニザール。配属までの間に、逃げ出すこととかできないの?

 ニザール、そういうの昔から得意だったよね?」

「逃げたところで、どこに行くんだ。どこにも行き場所なんてないだろう」


そう、この世界で、忌子が生きていく場所などない

仮に逃げたところで、行き場所などないのだ


「…ニザール。貴方はすごく賢くて、皆にはない強さを持ってる。

 それに戦闘だって、貴方の速さと気配の消し方は誰にもマネできるものじゃない。

 現に、本気で打ち合っても貴方と私の勝率は五分でしょう?

 絶対にそれを生かせる場所はあるはずだよ」

「…残念だが、この世界のルールは、お前も知っているだろう?

 お前の言ってくれたそれは、この世界では力じゃない」

そう。どれだけ誰よりも俊敏に動けようと、誰よりも気配を読んで動けようと、それだけではこの世界では何の役にも立たない。

どれだけ気配を消しても魔法による探知は誤魔化せない。

どれほど俊敏に動けようと、肉や鉄を裂けるだけの力がなければ相手を打ち倒せない

エレンの言う”五分”とは、武器だけをもった立ち合いの状態でのことだ

標準的な装備であるフルアーマープレートをつけてしまえば、僕の攻撃力ではエレンに傷一つつけられない


「…なら、せめて、私が”卒業”するまで、生きていてくれるだけでもいい。

 きっと私は卒業すればある程度は稼ぐあてがあると思う。

 また昔みたいに、ただ、二人で生きているだけでも、それでもいいじゃん」

「…夢物語だよ、エレン。僕が戦場で生き残れるとでも?」

「それは………」

戦場での敵は、何も正面の相手だけではないのだ

万が一、初陣で自分に命があったとして、

その命が帰るまで繋がっている保証はないのだ

自分の場合は、猶更


「…それでも、私は信じてるよ。ニザールなら、きっと何とかするって」

「頑固なやつだな。そうだな。もし、そんなことがあるなら、お前を迎えに戻ってくるよ」


気休めの冗談のつもりだったが、途端にエレンの顔に笑顔が戻る

「うん、約束!…私の知らないところで死ぬなんて、許さないよ。」

そういうと、彼女は真っすぐ瞳を覗き込んでくる

揺れる薄いブラウンの瞳に自分の姿がくっきりと映っていた


「分かったよ…やれるだけは、やってみるよ」

それを聞くと、彼女は満足そうに頷いた。

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