第4話 ルーコ試作マキソウタイの実力
朝になるとケルビは、昨夜の騒動は夢だったのかと思える静寂の中にいた。
(これはどう捉えるべきなんだろうか?)
グレンクと顔を突き合せて渋い表情を作っていた。
「どうした? 何か変なもんでも食った? それとも得体の知れないものでも感知した? ヤコブ村島の奴らとかさ」
ヴェレクは適格者となったこれからは、地上村よりも村島の方に力を入れなければならない。
そのつもりで会いに来たようだった。
「運用の確認は今度だな。遠隔感知ギリギリの位置で、何かが飛んでるようだ。巨大樹の陰になって良く分からないが、現われたり消えたりしてる」
ケルビが情報を共有する。
ヴェレクが言うようにヤコブ村島の者が飛んでいるのかもしれない。
訓練は定期的に決まった日時となるが、ヴェレクが慣熟訓練をしていたようにセルツィが同じことをしている可能性もある。
決まったとき以外は動かさないと言うようなことはないのである。
だが予想外のことが起きている可能性もあるのだ。
「そうなのか? それなら俺が先行して見てくるよ」
「まて、調子に乗るな! 盗賊の可能性もあるんだ。1人だけで行こうなどと考えんじゃない!」
気楽に言うヴェレクにケルビは厳しめに伝える。
いくら第二世代の【ローモ】だとは言え、慢心していては痛い目に遭ってしまう。
それに盗賊なのであれば同じか更に最新の【バランド】の可能性もあるのだ。
(無敵にでもなったつもりなのか? まずはヴェレクに決まり事を叩き込まなきゃ駄目なんじゃないのか?)
「うぅぅん……。年寄りは足手纏いだからここで警戒して、万が一のことが――」
「ヴェレク! ――儂との約束は、忘れとらんじゃろうな?」
教育が必要かとケルビが考えていると、目を細めたグレンクがヴェレクを見据えて言葉を止めさせた。
「……もちろんだよ」
「なら良い。……頼んだぞよ」
軽く頷いたヴェレクは、マキソウタイを出すと直ぐに乗り込んで飛び立っていった。
「……グレンク。良いのか?」
「……もう儂らは正面から戦える力はない。マキソウタイも旧式で、ちんけな盗賊にも性能で劣るじゃろう。じゃからヴェレクが矢面に立って引き受けるつもりなんじゃ。あれは優しさの表われなんじゃよ。……あやつは照れなのか、素直には言えんのじゃろうな。――だがしっかりと約束はさせた。じゃから信じて、儂らもいつもどおりに動くんじゃ」
不安になるケルビだったがグレンクの言葉は的確すぎて何も言い返せない。
せめて約束とは何か、無茶させないためなのかと聞くだけしかなかった。
◆ ◆ ◆
ヴェレクは相手に遠隔感知されないよう巨大樹を縫うように飛んでいた。
マキソウタイは第二世代が作られると、船型も含めて性能に大きな違いがあることが目に付いた。
だが速度や機動性などを測る手段がない。
そこで最初に作られた第一世代の人型を基準の1として、比較で現わすようになった。
貨物の積載量は第一世代の船型が基準となる。
第二世代の人型【ローモ】岩の神の鎧
全長8メートル・最大出力1・稼働時間3
最大速度2・機動力2・堅固性2
遠隔感知距離2
第三世代の人型【バランド】雷の神の鎧
全長6メートル・最大出力2・稼働時間3
最大速度3・機動力3・堅固性2
遠隔感知距離3
第一世代の船型【ヤトモゥ】大気の神の乗り物
全長15メートル・最大出力1・稼働時間4
最大速度2・機動力2・堅固性1
遠隔感知距離1・積載量1・人型の搭載数0騎
第二世代の船型【モンド】山の神の乗り物
全長180メートル・最大出力3・稼働時間5
最大速度2・機動力1・堅固性4
遠隔感知距離4・積載量5・人型の搭載数16騎
第三世代の船型【ヴェヤフ】風の神の乗り物
全長45メートル・最大出力3・稼働時間3
最大速度3・機動力2・堅固性3
遠隔感知距離4・積載量3・人型の搭載数4騎
【ルーコ】の遠隔感知距離は9である。
【ドルティ】では感知距離ギリギリではっきりとしなかったものが、鮮明に捉えられていた。
大きさから人型マキソウタイのようである。
その数は4騎で菱形に隊形を組んだものが三つ。
いや今四つに増えて大きな菱形の隊形にもなった。
分かりやすく言えば全部で16騎の1個小隊である。
その中央に何かがあって守っているようであった。
(盗賊の集団か? なんか嫌な感じがするな……)
ラダン村島が小さくなっていく。
反対に点のように見えてきたマキソウタイは世界の果てから少し手前の位置で止まっていた。
その中心の、何もない場所の大きさに嫌な予感がした。
国境には大量にアンデットが存在する。
そう言う場所での相互の繋がりは回廊となる。
直径が百メートルから数百メートルほどで、出入り可能な側だけ中が青白く輝くが、横や後ろからは漆黒となっていて通ると普通に通り過ぎてしまうのだ。
まさに目の前にある直径200メートルほどの空間が、後ろから見た回廊のようであった。
次第にマキソウタイの姿が明らかになってきた。
曲がって方向を変える巨大樹に隠れて観察すると、全身どす黒い赤色で、背中と左右の前脚部に大きく鮮やかな赤色の図柄。
2匹の蛇が左右から螺旋となって再び外側を向いていた。
ヂィヴァーズル帝国の国章であった。
マキソウタイは普通に製作すると暗灰色なのだが、第三世代からは好きな色を施せるようになる。
塗装も可能だが使用していると直ぐにくすんで暗灰色に戻るのである。
つまり16騎もの【バランド】であったのだ。
(これは……。盗賊じゃなくて、ヂィヴァーズル帝国の侵攻じゃねえか? まっ、大規模な盗賊と、それほど変わらねぇけどな)
未来の記憶があるヴェレクは、准世界でも帝国からの侵攻があったことは知っていた。
ただ歴史に興味のなかったヴェレクは何時どこであったかと曖昧になっている。
最初に作られた第一世代を基準とし、第二世代の初製作は25年後、第三世代の初製作は更に25年後で、現在はそれから3年が経過している。
ヴェレクは試作体操縦者をしていたから分かるが、第八世代の初製作は現在から122年も経っているのである。
ヴェレクが巨大樹の陰から出て近付くと感知したのか3個分隊が吶喊してくる。
持っている武器は全てのマキソウタイで、ヴルームリイネン王国の物とは少し違うタイプの<グレイブ>であった。
武器には頭に浮かぶ決まった形状はないので、各国で人の武器を参考に作られるので似ているが同じではないのだ。
「おうおうおう、突っ込んでくるか。余裕とでも思ったのか? だが残念ってもんだな」
見た目は未知のマキソウタイと言うわけではない。
第八世代のマキソウタイではあるが、知らない者にとっては第二世代である。
第八世代からは新しい形状ではなく、今までの世代の形状から選択するようになる。
これは性能こそ桁違いではあるが、第二世代に似せられて作られたものなのだった。
「やっぱ何か出てくんのか? ……なら時間は掛けられねぇな。――<ゴースト>!」
(グレンクさん。約束は破ってないからね!)
心の中で言い訳をすると【ルーコ】専用の武器を展開した。
第三世代までは剣や槍などの物理武器だけである。
第四と第五は船型の第二世代から可能となった、溜めていた魔素を塊で飛ばす<魔塊砲>を小型化したものも備えるようになる。
第六からは魔素を複雑に用いるようになり、武器に纏う
<ゴースト>はそれをさらに発展させたものである。
【ルーコ】の全身から、魔力で同じように見せかけた魔素密度の薄い分身体が作り出された。
頭部斜め前方、胴体の上下左右、脚部斜め後方とそれぞれ4騎の合計12騎である。
非常に濃い密度の魔素で纏武器のように象った<バスタードソード>も装備していた。
(ああ、そうか、思い出した。試作体と一体型の<ゴースト>が完成した後、あいつが12騎じゃなくて1個小隊まで増やしたいと言ったんだった。ストレージに仮保管し、整頓のできない人だったから様々な試作品も収納していたなぁ。限界を極めた次の第八世代で再び試験をしたとき、大規模に魔素が破裂したんだった)
帝国のマキソウタイは、一瞬で12騎も増えたことに躊躇しているようだった。
「数では負けてるけど、十分すぎるな」
隙を見逃さず、魔素で繋がっている<ゴースト>に綺麗に始末しろと指示を与える。
3個分隊に吶喊していく<ゴースト>。
残りの1分隊は回廊付近から動いていない。
異変があった場合は戻って知らせる役割を持っていそうだった。
ヴェレクは1分隊に向かって全速で飛びながら、ストレージから<ゴースト>を作る前段階で作られた武器を取り出す。
試作として作られた<スダルサナ>であった。
試作品のため射程は短い。
だが【ルーコ】試作体の性能は、最大出力12・稼働時間8・最大速度13・機動力14・堅固性11・遠隔感知距離9と、桁違いである。
<スダルサナ>の短所を補うべく直ぐに攻撃可能な圏内へと入った。
「理解の範疇を超えたか? だがそれは致命的だ、っと」
人型マキソウタイの動きは操縦者の動きである。
予想外の目撃者だろうが、たった1騎でしかも第二世代だと侮ったのだろう。
小馬鹿にして始末しようとしたが意味不明となり、戻って判断を仰ぐこともすっかりと頭から抜け落ちているようだった。
話しは出来ないので会話には手振りが必要だが、それもせず4騎とも完全に動きを止めたままである。
だがそれは格好の的でしかなかった。
左右に持った<スダルサナ>を下手から投げ飛ばす。
試作品ゆえに手首を返して回転を与える。
量産品はただ投げるだけで良くなったのだが、試作の段階では手首を返すことと勢いが重要であった。
「駄目出しされて何回やったことか。……だが回転力を上げると、量産品よりも貫通力は高いってぇの!」
超高速で回転する<スダルサナ>が大きな弧を描いて飛んでいく。
束の間の出来事であり、対象は何があったのかすら分からずに胸に穴を開けた。
しかも魔素で繋がっている。
ヴェレクが小さく腕を回すと<スダルサナ>は小さな弧に変わり、右側は上に、左側は下にと向きを変えた。
直ぐに残り2騎となったマキソウタイの背中も貫いたのだ。
ヴェレクが手首を返すと通った軌跡を巻き戻しするかのように帰ってくる。
中央に空いている穴に指を入れると回収したのだった。
<ゴースト>も役目を終えて戻ってきていた。
回廊と思しき空間を迂回するように反対側にでる。
振り返ると、青白く輝くそれは間違いなく聞いたことのある回廊のようである。
現在はもちろん試作体操縦者だった未来でも初めて見るものであった。
回廊を囲むように守っていたと言うことは、とうぜん何かが出てくるのだろう。
普通に考えれば船型ではないかと思われる。
始末したマキソウタイを<ゴースト>に一箇所に集めさせ、ヴェレクはストレージから<重魔塊砲>を取り出した。
第五世代の人型が大型となり、堅固性が大幅に上がったことで第四世代で作られた軽魔塊砲を大型化して貫通力を上げ、中で炸裂する機能を加えたものである。
だが使用できる回数は少なく18回であった。
「よく考えたら、――どうやって持ったら良いんだ、これ?」
以前、参考で持っていたときは第五世代のマキソウタイである。
第八世代には大きすぎるのである。
「……肩に担げば良いか?」
捏ねくり回して、何とか収まりの良い位置を見つけた。
侵攻してくる輩に正々堂々との精神は必要ない。
回数制限もある。
再び回廊の裏側に回ると肩に担いで待ち構えた。
少しすると何かが出て来る。
やはりどす黒い赤色で帝国の国章を付けた船型であった。
進行方向に水平に菱形の隊形を組んでいる。
「【ヴェヤフ】か。でも……軍隊って分かりやすいな」
4隻で隊形を組んでいるなら、その後に続くものがあれば少しは距離を開けているだろう。
その間隔は短いだろうが、回廊などと言うものを通る関係から後続が気付かないうちに迎撃が可能そうであった。
ヴェレクは第三世代の船型が4隻出終わったのを見ると<重魔塊砲>を続けざまに放った。
上後方からなので船尾楼を貫いて甲板のすぐ下あたりで炸裂した。
事前に16騎の人型が現われていたので
マキソウタイの中で、船型だろうが人型だろうが他のマキソウタイの出し入れは出来ないので、直ぐに必要なら乗せてくるしかないのである。
直ぐ<ゴースト>に指示を出す。
残骸を始末したマキソウタイが集まっている場所に持って行かせ、続くかも知れない次に備えた。
第三世代の船型が同じく隊形を組んで出てきた。
先程と同じように作業のように処理して<ゴースト>に撤去させる。
更に4隻、続けて4隻と出てきては始末した。
(……まてよ。侵攻してきて、何をしようってんだ? ――盗賊のように、奪ってヒャッハーではないんだろう?)
ヴェレクの予想は嫌な方向に膨らんでいく。
そのまま目を凝らして回廊を睨み付けていると巨大な物体が姿を現わした。
「まじかぁ? ……【モンド】、第二世代の船型かよぉ」
全長180メートル。
人型マキソウタイの搭載数は16。
堅固性も更に高く、幾つもの大型の魔塊砲を備えている。
一撃で仕留めきれなければ魔塊砲による飽和攻撃と人型マキソウタイが出てきかねない。
また後続が来れば察知され、混戦に陥ることだろう。
こちらの戦力は<ゴースト>を除けばヴェレク1騎だけである。
もし1騎でもラダン村島にでも向かわれたら、間違いなく落とされるだろう。
<ゴースト>もそれほど離れられるわけではないのだ。
「一気にここら一帯を制圧して橋頭堡を築き、侵略の足掛かりにするつもりなのかぁ……。そんな歴史だったかなぁ? さすがに歴史家でもなければ、普通は覚えてるはずもないか」
【モンド】が全体を現わした。
<重魔塊砲>の使用回数は残り2回しかない。
1隻だけと考えるのは楽観的であり直ぐに2隻目も姿を現わすだろう。
今すぐにでも動かなければならないヴェレクは、決断を迫られたのだった。
◆ ◆ ◆
グレンクはケルビと共に、ヴェレクが村島を飛び立つと直ぐに動き出していた。
今までは第一世代が2騎しかない村島だったのである。
盗賊への対策は撃退ではない。
応援を呼ぶことと避難であり徹底させて訓練もしていたのだ。
グレンクはケルビの問いに答えた。
『今後は1人で動くこともあるじゃろう。じゃが決して無理するでないぞよ。盗賊を見つけたなら直ぐに帰ってくるんじゃ』
『俺が1人で始末するよ』
『1人でするな!』
『グレンクさん達は邪魔にしかならないからなぁ』
『うぐっ。痛いところを突きよるが、だが駄目じゃ』
『爺ちゃんもしつこいなぁ。じゃあ1人での対処が難しそうなら帰ってくるよ。それで良いだろう?』
『……約束じゃぞ。忘れずに必ず守るんじゃぞ』
約束の内容を聞いたケルビは、込み上げてきたのか脱力感を伴った笑いを浮かべていた。
「反抗期かと思ったら照れ屋なのかよ。はは! ――ヴェレク、判断を間違えんなよ」
ケルビはヴェレクの飛んでいった方向を見る。
するとグレンクも同じ方向に視線を送った。
「なに、ヤコブ村島の者じゃったと、直ぐに帰ってくるじゃろうよ。……ヴェレク、無茶だけはするんじゃないぞよ」
だがその後のことである。
少しの言い合いをしたのだ。
何かが村島に向かってきたら1騎は確認に赴き、1騎は村島の上空で待つ。
盗賊だった場合は決めていた八の字の動きをして村島の上で遠隔感知しているマキソウタイに知らせる。
知ったなら領内ではもっとも近いヤコブ村島に飛んで救援を求める。
村島では速やかに避難の準備をして地上村に移動し、残る者が上空のマキソウタイの移動をもって避難して、華表を破壊する決まりであったのだ。
だが確認に行ったマキソウタイは救援を求めに行くマキソウタイを脱出させなければならない。
地上村への避難は人数がいるので多少の時間が掛かり華表の破壊も時間を要する。
そのため身体を張って時間を稼がなければならないのだ。
結局グレンクはケルビからの一言に頷く他なかった。
『ヴェレクの友人。特にエリーリへの説明は、とてもじゃないけど俺からは出来そうにないよ。頼むよグレンクさん。団長なんだからさ。……頼むよ』
団長の責任と押し付けるが、その代償はケルビの命なのである。
グレンクに生き延びて欲しいと言っているのだ。
(ふぉっふぉ。ケルビが生意気を言うのう。じゃがお主だけじゃなくて、一蓮托生なんじゃぞよ)
盗賊が複数だった場合は抜けてくるマキソウタイも必ずいることだろう。
2人の乗るマキソウタイは第一世代である。
同程度の性能などありえず直ぐに追い付かれるだろう。
老いぼれのグレンクは身命を賭して派手に動き、ヤコブ村島の遠隔感知に違和感を持たせるつもりなのだ。
ヴェレク1人であれば何とかなるだろう。
老いぼれとは離しておけば、庇おうなどとは出来ないのだから。
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