第3話 ラダン村の守衛団員たち
朝になって第七哨戒船が飛び立つのを見送った後、地上村での農作業の安全のため巡回に行く者達が村長の家の前にと集まっていた。
村長の家は神社となっていて、敷地の入り口に象徴としての鳥居がある。
だが中程にある鳥居が華表なのであった。
「みんな、怪我をしないように気を付けてな。頼んだぞ」
ラダンが親指を立てながら片目を瞑り白い歯を光らせて笑顔を見せた。
参加者はアロバ、シュプレ、ロイネ、エリーリ、ウッディ、そしてヴェレクの6人であり、それぞれの性格による返事をしていた。
(結局は酔い潰れなかったか。タフなおっさんだ……残念)
ヴェレクは半ば感心してジト目で返していた。
「あぁら新しい適格者さんが、今までの適格者さんを
射貫くような冷めた目付きを向けてくるエリーリがいた。
ヴェレクはエリーリの心情を知らずにありのままを伝える。
「もう直ぐ、四キョウテンに上がりそうだからさ。昨夜アロバさんに参加したいと頼んだんだよ」
ヴェレクはティムトス神宮で三キョウテンにと上がっていた。
だが閃きに似た感じがあり、宴会の席で四キョウテンに上がりそうだから参加させろと迫った。
マキョウテンの能力を向上させるとマキソウタイの能力も上げられるのだ。
「はぁぁあ? 何それ。……嘘でしょう?」
絶句するエリーリだが他にも唖然とする者がいた。
ロイネである。
徐々に顔が曇っていくと俯き唇を噛みしめたのだった。
「いつまでも喋ってないで、行くぞ!」
アロバの号令で順に華表をくぐる。
その先のラダン地上村では大きな集会場となる建物が一つしかなく華表を内包するように造られていた。
昼の休憩や夜の見張りで使われ、その外側は広大な農地になっている。
獣害用に柵で囲み、盗賊用に柵の上に透明な紐が張られて衝撃で音が鳴る仕掛けが施されていた。
泊まり込んでいた3人に頷きだけで挨拶を交わす。
1日交替の輪番制で地上村の見張りを担当していた者達だ。
問題が起きて簡単に対処できないと判断すれば1人が村島に応援要請をする手筈である。
もう直ぐ交代の3人がくる頃であった。
「いつも通り二つの班に分け、左右から柵の外側を少し離れた位置まで見回りを行う」
「俺はロイネとヴィディと一緒が良い」
「なあに、私とは嫌だってこと? 寂しいじゃない。小さい頃はオシメだって替えてあげたのにさ」
ヴェレクの言葉に口を開こうとしたアロバだが、それより前にシュプレがとんでもないことを言った。
「えっ、嘘?」
「そんなに歳も変わらないじゃない? 揶揄われているんだよ」
ヴェレクが驚くとヴィディが尤もな説明をする。
21歳で何事にも率先して共に行おうと誘う姉御肌なのだが、6歳でオシメ替えは難しそうであった。
班分けに決まりがあることはヴェレクも知っていた。
男だけ女だけ、経験の浅い十代だけと言うのは駄目なのである。
だがシュプレの偶に出る陽気さが苦手とまではいかないが、リズムが狂うのは確かだったのだ。
ヴェレクが長息すると陽気に笑い出した。
その後で的確な班分けを行う。
「ヴェレクはアロバとヴィディと右回りで行って! 私はエリーリとロイネと左回りで行くよ」
アロバが苦笑しながら頷いた。
外に出るとリシュルが畑全体を眺めていた。
既に畑に入って働いている者もいる。
リシュルは地上村で農作の取り纏めをしているのだ。
見回りをしてくると話して柵の外に出る。
二班に分かれ、近場をヴィディ、離れた位置をヴェレク、その間をアロバが担当として、マキョウテンを発動させると右方向に進み出したのだった。
◇ ◇ ◇
人は大気中から無意識にマナを取り込んでいて、体内に入ると魔素へと変化する。
普通は体内の魔素を意識できずに全身から発散して世界に戻されるが、12歳頃から15歳までの間に約10人に1人の者が魔力に目覚め意識できるようになるのだ。
体内の魔素を魔力にて意識しながら体表面にまで溢れさせるよう発動させることで、その者の持つ通常の、心肺能力・瞬発力・持久力・
マキョウテン。
正式名称で言うところの魔力強化纏いであり、適性者は少しの練習で全身に纏わせる身体強化が出来るようになるのだ。
マキョウテンの出来る者が祝福の門をくぐると、それまでの身体強化から制限を解除された感じになり更に強化が出来るようになる。
溜まっていた経験から一気に一,二段階あがる者もいる。
マキョウテンを意識して使い続けることで、感覚ではあるが能力を最初の二倍程から九倍程まで向上させることが出来る。
二倍程になる者から始まり、九倍程の者は八キョウテンと呼ばれていた。
また同時に約100人に1人の者は、魔素が浸透した直ぐ近くにあるものを纏った魔素を介して魔力で操作できるようになる。
マキョウテンを発動させている必要はあるが、マキソウタイを操縦できるのである。
◆ ◆
柵に沿って半周も回ればもう一班と合流する。
気になる部分も含めて互いに何の問題もなかったと連絡しあう。
最近はアンデットが寄ってこない安定した安全性であった。
「アロバ! 時間も早いし、なにか獲物でも探さない?」
村では食肉用も含めた家畜は飼っているが、狩れる場所にいるなら食料の確保はした方が良い。
不測の事態があった場合にも家畜は重要なのである。
「そうだな。――日が暮れ始める前まで探すとするか」
リシュルの提案を採用して6人で移動する。
誰からとなく進んだ方向に皆が歩き出す。
かなり先だが大きな池があり、動物がよく水を飲みに来ることを知っているのだ。
マキョウテンを発動して軽く走っていると先頭のアロバが手を上げて速度を落とす。
シュプレが横に並んで二つ三つ話しをすると止まって向き直った。
「この先から、13ほどの個体が向かってきている。動きからして盗賊ではなく、十中八九アンデット、それもスケルトンだろう」
過去に地上で戦争をしていたときの兵士や一般人などの成れの果てであった。
国境ほど多く存在すると言われている。
恨みが無いか弱いものだとゾンビ・スケルトン・スペクター・グール等になり、強欲な者であればワイト、恨みが強い者だった場合はレイスかリッチになるとされている。
スケルトンとは言わずと知れた、動く骸骨であった。
アロバが鋭い目付きでヴェレク達を見据える。
シュプレは真っ直ぐにヴェレクを見ていた。
「俺に、――やらせては貰えないですか? みんな三キョウテンに上がったのに、俺だけ……」
言ったのはロイネだった。
一旦切った言葉の後に、決意が見て取れた。
シュプレが意外そうな表情をするとアロバを見る。
アロバは頷きロイネの両肩に手を置いた。
「よし、やってみろ! 1人で大丈夫だな?」
「……できれば、もう1人」
「はははは! よし。じゃあ、ヴェレクをつけるよ!」
シュプレが勝手にヴェレクを指名する。
だが華表をくぐる前に、四キョウテンに上げるためだと言ったのでそのせいかもしれない。
歓迎するところであった。
ヴェレクの第六感にもアンデットを捉えた。
心なしか左右に分かれるように少しの間隔があって数にも差がある。
「ロイネ。右に8体の、左に5体いる。どっち叩く?」
「あっ、じゃあ、……左で」
「……お前、右いけよ。左が終わったら援護してやるからさ」
ヴェレクはそれだけ言うと、腰の後ろに差していた片刃の剣を引き抜いて反対に返す。
スケルトンの場合には刃毀れの可能性もあるので背面側で殴って砕くのである。
ロイネも観念したのか右側に陣取ると待ち構える。
他の者は後ろに回り込んで観戦の態勢であった。
「ヴィディ。エリーリも。良く見ておいた方が良いよ。――適格者になれる人って、何かが違うんじゃないかと思っているんだよね」
リシュルが翌年に加護の発現を控えているヴィディに考えを伝えていた。
エリーリは悔しそうに唇を噛む。
それを見たリシュルが戯けた。
「私も15になる前に、適格者となった人が帰ってきてくれていれば何かが分かったかもしれないんだけどね。――まあでも今は、八キョウテンを目指しながら、ラダン地上村は何があっても守り抜くつもりだけどね」
『パアァァァン』
エリーリが自分の両頬に勢いよく張った。
ロイネは驚いて身体を跳ねさせたが、ヴェレクは微動だにしなかった。
そればかりか薄らと口角を上げていた。
「あたしも、あたしも絶対に八キョウテンになってやる。誰よりも、絶対に強くなってやるんだから」
声は小さいがエリーリは凄みのある声で呟く。
適格者になれる可能性があるヴィディは何も言わずに小さく頷くだけだった。
(そうだぞ、エリーリ。凹むな。お前に出来ることで、お前にしか出来ないようになってやれば良いんだ。ロイネも6人もいるんだから無謀なくらいに突っ込んでいけよ。俺はそんなお前等と一緒に鍛えてぇし、村を守りてぇんだよ)
アンデットが姿を現わした。
アロバの予想通りスケルトンである。
(敵の兵士だったかもしれないし先祖だった可能性もあるが、俺達は今を生きてんだ。バチ当たりかもしれないが、恨むなよ?)
ヴェレクが殴り込む。
それを見たロイネも大きく息を吐いてから突撃した。
スケルトンは元々持っていたものなのか拾ったものなのか、錆びたり折れたりした剣や槍に棍棒などで攻撃してくる。
いつも当てもなく歩き回り動くものに見境無く攻撃する。
打撃で半分ほどの骨を外せば退治が完了する。
ヴェレクが1体に向かって水平の剣を振るった。
だがスケルトンは俊敏な動作でバックステップする。
(骨しかねぇくせに、何でそこまで動けんだか? だが狙いは、お前じゃないっと)
ヴェレクは剣の振りに合せて鋭く横に一歩を踏み込むと、今度は反対側から振り抜いた。
『バキッボキッバキッ』
陰にいたスケルトンの肋骨部分に鮮やかに当たる。
剣が骨を粉砕しながら進み、反対側に抜けるとバラバラと崩れ落ちた。
動きを止めないよう一歩前にと踏み出すと、錆びた剣が頭上に降ってくる。
片足を軸にして回ることで回避し、そのまま体当たりを噛ました。
後方に倒れ込むスケルトンが別の個体を巻き込む。
ヴェレクは強く地面を蹴ると瞬時に見極め、体重を乗せた渾身の力で剣を薙ぎ払った。
『ゴキゴキゴキッ、ゴキッ』
4体のスケルトンの腰椎を次々と砕いていく。
振り切った後には骨の山が出来上がった。
「……全然分かんないもんだねぇ。まあでも簡単に分かるんなら、みんなが適格者になれているっか」
「でも、凄い……」
直ぐに諦めたリシュルに、目を輝かせるヴィディ。
そして食い入るように見詰めるエリーリがいた。
(そんなに見んなよ。照れちまうだろうが。――っと、ロイネの方はどうなった?)
骨が方々に散らばり何体か倒したのが分かる。
善戦はしているようだった。
囲まれないように動きを止めず3体目の腕を砕いた。
だが息が上がってきているのが見てとれた。
ヴェレクは
スケルトンが後方を警戒した。
「ロイネ! 意識が分散した今だ!」
「……もう無理」
ロイネが後ろに跳んで距離を取った。
残ったスケルトン全てがヴェレクへと向いた。
「…………」
ヴェレクは無言で剣を振るう。
最後の1体を退治すると、祝福の門をくぐったときと同じ感覚がした。
「おっ、きたきた! たぶん四キョウテンに上がった」
剣を収めながら、地上村に来た目的が達成したことを伝える。
だがエリーリに腕を引っ張られた。
「ちょっと、――空気を読みなさいよ」
エリーリの視線を追うとロイネが俯いている。
ヴィディはアロバとシュプレと一緒に少し離れた場所で見ていた。
ヴェレクが今のロイネに言えることは何もない。
だが独り言なら言えることがあった。
「七つ全てを全力で使ったのが良かったんだな。うんうん」
「そっ、そうなの?」
エリーリが興味津々とばかりに身を乗り出す。
「アロバさぁん? 獲物探しを再開するぅ?」
だが話しをぶった切る。
当然ながら「教えなさいよ」と腕を抓られてしまった。
ヴェレクにも分からないことである。
ただこう言うことではと思ってやっていることなので「だと思うけどなぁ」と返すだけであった。
「そうだな。続けよう」
アロバの言葉で6人が集まる。
目的地だった池に向かって走り出すのだった。
池には牛の群が集まっていた。
他の個体との位置関係で孤立させやすそうな1頭を狙う。
安全面に憂慮して隣に配慮しながら全員で連係を取る形で狩りを行った。
「こっ、これが? この感覚が、三キョウテンになったってことなのか?」
全員がロイネに七つの能力を意識させるようにして仕留めさせた結果だった。
「おめでとう。これで村の安全が、更に増すことになるな」
戸惑うロイネだったが、ヴェレクの言葉から始まって次々と褒め称えられる。
だがアロバとヴェレク以外の表情は遣る気に満ちていて、意識が新たにされたようである。
アロバが牛をストレージに仕舞い込むと、地上村への帰路へと就くのだった。
◆ ◆
村島へ戻ると、アロバはストレージから獲物を取り出した。
その瞬間に夜は宴会となることが決定したのだった。
推定500キログラムはある大きな牛である。
可食部は相当の量となり村民全員で食べても余裕の量であった。
分厚く切って香草とともに焼いたもの。
肉が多めの汁物。
湯に通してからタレに漬けるもの。
野菜と肉を交互に串に刺して焼いたもの。
サラダにも細かくした肉を投入し、煙で香りをつけたもの等が所狭しと並んだ。
「ヴェレク! こっちゃに来い。こっちゃに。ほりゃ、こっちゃだ、こっちゃ」
ラダンのいつもの病気がでた。
あまりにもしつこく呼ぶもので今度こそ酔い潰してやるかと近付く。
「ラダン村長。楽しそうで何よりです。僕にも注がせて貰えませんか?」(クックックックッ)
「この村は、ラダン村長あっての村ですからね。いつも感謝してるんですよ」(んな訳ねえだろうが。クックックッ)
「相変わらずの邪悪な表情よねぇ、あんた」
「おっ、――おおおお?」
エリーリの方を向いた瞬間に、急に首に腕を回されて引っ張られた。
「ヴェジェクぅ。ほこにも行かんじぇ、くりゃりょ」
酔っ払いのわりには力が強くて頬ずりされてしまう。
夜になって伸びた髭がジョリジョリと痛い。
だがそれよりも酒臭く、限りない鬱陶しさだった。
(なんでこいつはこんなんなってんのに酔い潰れないんだ? アンデットかこいつは? 新種のアンデットなのか?)
「お父さん!」
顔をくっつけながら反対の手で酒を飲むラダンだったが、突如あらわれたリシュルによって酒を取り上げられた。
「ほっ、ほれのひゃけ……」
立ち上げるとアンデットのようにリシュルに近付く。
目を細めたリシュルが指を鳴らした。
『パチィィン』
ラダンの頭上から大量の水が降り注いだ。
桶に入っていた水をロイネがぶちまけたのだ。
だがその後にリシュルに敬礼する。
リシュルの指示で、今日上がったばかりの三キョウテンを駆使して駆け付けたようだった。
「ロイネのやつ、いつの間に手下になったんだ?」
宴会はいつのまにか静まり返っていた。
皆がラダンに注目している。
「ぶえっくしょん!」
ラダンがくしゃみをすると誰かが笑った。
それを聞いた者も笑って連鎖していく。
夜は更けていくのだった。
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