第2話 ラダン村島の新たな適格者
准世界が開かれると、適格者で且つ大きなストレージをもっている者が海に浮かぶ小さな島を収納してマキソウタイにて准世界に設置していった。
島は特殊物職人によって上部にドーム型の障壁を展開して准世界でも生活できるようにしたものである。
だがマキソウタイの出入りはそのままで可能であった。
華表にて繋がった場所は巨大樹の近くである。
地上では船型のマキソウタイは全く動けないが人型ならば少しは動ける。
落ちるように准世界に入り込んで華表の出入り口が島の地表付近になるように調整したのだ。
准世界は暗闇の世界だが、昼間は明かりが漏れてくる円い大きな天窓のようなものが存在し島を照らしている。
地上から見える恒星なのか1日はどちらも同じ周期で明暗を繰り返す。
ただ准世界は天窓なので明かりの位置は変わらない。
夜になると巨大樹が昼間の光でも吸収したのか仄かに青白く発光する。
各島からの明かりも届くのだ。
この世界では方々で、様々な方向に無数の白い柱が伸びている。
柱と言っても樹木の枝や蔦のように複雑に伸びており、太さも直径で数メートルから2,3キロメートルとまちまちである。
中には渦巻き状になっている箇所や、迷路のように入り組んだ場所まで存在する。
所狭しと集まる密集地帯があれば、ぽっかりと開いて何もない一帯もあり、一箇所だけだが5キロメートルにも及びそうな肥大化しているものもあった。
白い柱はマナの塊で、この空間そのものを支えているのではないかと話されたが、巨大樹と命名されただけで結論は出ていない。
立って歩ける太さに応じた重力があって島にも重力があることから、マナの大きな塊が地中に含んでいて重力を発生させているのではと推測されていた。
天窓を背にして進んでいけば、更に進もうとしても闇に包まれて反対向きに進んでしまう世界の果てに突き当たる。
巨大樹が1本だけ通る空白地帯であり、だが方々で等間隔ではないかと思える長大な距離を開けて世界の果てまで続いている。
准世界を保持している支柱ではないかと推察されており、ラダン村島の近くにもその枝が通過していて世界の果てに向かっていた。
地上と比べれば華表一つから広がる准世界は広大だが空間には限りがある。
だが地上で近くに華表が設けられれば准世界同士が繋がり更に広くなる。
その距離は場所によって異なり明確になっていないが、遠いと個別に存在する繋がらない准世界となる。
そのため地上では全てが繋がるように調整しながら華表が設置されていた。
◆ ◆
ラダン村島が見えてくるとマキソウタイの速度を落とす。
どこでもそうだが華表を設置した場合は准世界と地上の二つが存在することになる。
そこで准世界の方は、村だった場合は
ヴェレクはラダン村島が好きであった。
世界の果ての手前にあって国の中でも1,2を争うほど僻地にある島である。
大きさも端から端まで1キロメートル程しかない狭さだ。
けれどヴェレクは非常に気に入っていた。
とにかくここは、とても居心地が良いのである。
なぜヴェレクのストレージに後のマキソウタイがあったのかは分からないが、試作体操縦者としての未来の記憶を持っていることに関係しているのかと思う。
肉の塊でしかない人の身体がそれだけで動くわけがない。
動かすためには肉体とは別の、動かす自我のようなものがあって何か関係があるのかと思うことにした。
それ以上は深く考える必要もなく、今はこのマキソウタイがあることに感謝するだけであった。
目の前の村島が次第に大きくなってくる。
人々が動き、話し、笑っているのを思い浮かべると、心が浮き立ってくる。つい頬が緩むと、ラダンのニヨニヨした顔が割り込んできた。
(くっ、ラダンの奴めぇ。俺はラダン村が好きなんじゃなくて、大大大好きなんだってぇの! それを人前で間違えて言いやがって。……いや、間違わなくても言うなってぇの)
思考内にいきなり出現したラダンを抹殺すると、早く帰りたい気持ちを抑えながら不思議に思われない速度でラダン村島へと辿り着いた。
村島には既に第七哨戒船が止まっていた。
船体は准世界に溶け込むかのような漆黒で、前側の左右と船尾楼の後ろに二つの正三角形を少し重ねた砂時計のような形状を横に倒した図柄が入っている。
ヴルームリイネン王国の国章であった。
その横にと降り立つ。
賑やかそうな声が聞こえてくるので宴会は始まっているようだった。
「よう、帰ったかヴェレク。【ローモ】はどうだった? 今度3騎での運用の確認をしなきゃな。――でもまあ今は、もう始まってるみたいだから楽しんでこいよ!」
ケルビが自身のマキソウタイに腰掛けていた。
怪しい者が村島に近付かないかグレンクと交代で、大量に魔素を含んだものを知るマキソウタイの遠隔感知の能力を使って常時監視しているのだ。
「ああ、悪いけど行くな。――確認は今度な」
手を上げるケルビに、ヴェレクはマキソウタイをストレージに仕舞い込む。
安全な場所なのでグレンクのマキソウタイも出しっぱなしになっている。
だがヴェレクは詳しく見られたくないので仕舞い込むのだ。
◆ ◆
村島の中央に足を踏み入れると各家からテーブルや椅子を持ち出したのか気の向くままに並べられた料理が乗っていた。
気が置けない者がくると何時ものことである。
「おおっ、この村きちゃいの新人の、マキショウタイ乗りが帰ってきよっちゃ! こっちゃだ、ペテク! こっちゃに来い、こいこい」
旨そうな料理をどれから食べるか物色していると不気味な声が掛かった。
声の方を見ると哨戒船の乗員6人が苦笑いしている、向かいの席からラダンが振り返りニヨニヨと手招きしていた。
隣にはグレンクもいる。
ヴェレクの目が細まった。
(あれはラダンの奴、相当酔ってんな。……となれば、もっと飲ませて酔い潰してやるとするか)「――クックックックッ」
「あんた、なに邪悪な笑い方してんのよ?」
剣呑な声が横から突き刺さる。
言い方や声で誰なのか察しが付いたヴェレクは本来の笑い方に戻って振り向いた。
「おっ、エリーリ。今日は地上村に行ってたのか? どうだった?」
「いつも通りよ。それより変な笑い方してないで、適格者になったって挨拶に行ったら? あたしも行くけどね」
エリーリは加護の発現を受けるため一緒にティムトス神宮へと赴いた1人である。
だが授からず、もう1人のロイネと先に帰ったのだが特に変わった様子はないようだった。
「……ロイネはどうしたんだ?」
かなり落ち込んでいたロイネが気掛かりだった。
「ここだよ。――ああぁぁ、神宮では悪かった、変に凹んじまってさ。だがまあ改めて、適性者としてやっていくつもりだからさ」
人を掻き分け、反対側がら出て来ると隣に並んで歩く。
「あたしもよ。適性者では誰にも絶対に負けないんだからね!」
「ヴェレクは適格者になったんだから、マジでスゲェんだから、そっちは頼むな?」
左右から話し掛けられ首を横に振るヴェレクだが、最後はしっかりと縦に振る。
「ああ、もちろん。ロートルは予備戦力にして、俺にしか出来ないことを俺がするだけだ!」
誰からともなく3人の頬が上がる。
本来ならセルツィもこの輪の中にいたのだが、想いが違っていた者のことを既に誰も言う者はいない。
3人は8人が座っているテーブルに着いたのだった。
「みなさんに報告があります。俺ヴェレクは、今年のティムトス神宮で、【ローモ125マキソウタイ】を貸し与えられました。先ほど仮想敵を思い浮かべて動いてきましたが、何とかやっていけそうです。ロートル……じゃなかった。先人と――」
「ぶっ!」
「はぁあ!? ――あんたは余計なことを言わないと、いられない
「はは! ロートル呼びとは面白いね?」
「ヴェレクぅ、しょれはいかん。グレ爺が、泣いちょるぞ?」
「ひょっひょっひょっ! おっと、これ以上笑うと危ないわい」
爺さんが笑っていた。
その場は笑いに包まれ、ヴェレクが続けるタイミングを逃してしまうと、両側から肘打ちが飛んできた。
「
肘打ちを食らわせた2人は真顔で正面を向いていた。
ヴェレクは何も言えずにそのまま続けるしかなかった。
「うん。ヴェレク君、よろしく。――盗賊はどこに潜んでいて、いつ襲って来るか分からないから十分に気を付けてね。でもラダン村島に戦力が増えたのは良いことだよね」
◇ ◇ ◇
華表職人となった盗賊が製作したマキソウタイを使い、戦力を持たないか、弱そうな島を襲撃しては奪い取り、自らの華表の場所に移して拠点とした。
准世界を行き交う商隊に襲い掛かり、奪った物資やマキソウタイなどを使用して更に数を増やしていく。
地上でアンデットに辟易させられ、隠れるように住んでいた溢れ者達だったので積極的であったのだ。
中には正式に貸し出されたマキソウタイで盗賊に身を落とした者もいたそうだ。
規模が大きくなってくると反発する者や更なる野心を現わして出て行く者達や、暖簾分けのように方々に向かう者達がいて盗賊はその数を爆発的に増やしていった。
ストレージとは何かと発見したのは盗賊だった。
それまでは生まれたときに決まってしまう九段階の大きさがあって無機物だけしか入れられないこと位しか分かっていなかった。
疑問に思っても人知を超えたものとして解き明かそうと思わなかったストレージだったが、巨大樹の中であったのだ。
肉や野菜を購入して帰宅し、出そうとしても出て来ない者が最初だったと言う。
そればかりか入れることも出来ずに使えないと大騒ぎしたことで皆の意識に残ったらしい。
だが暫くすると何事もなかったかのように使えるようになった。
でも今度は他の者が同じ様な状態になった。
同じことが何回か繰り返され、そのうち幾人もが同時に使えなくなってしまった。
だが丁度そのとき、盗賊の集団が捕まったのだ。
様々な尋問をすると私的な苛立ちを巨大樹にぶつけ、殴り壊したら中から食料が出てきたので繰り返したのだと言う。
巨大樹の全ての場所と言うわけではないが所々が空洞となっていて人々のストレージの内部となっているのだと判明したのだ。
太い巨大樹は高価な物が入っていそうな大きなストレージだと当たりを付けたが、壊そうとしても無理だったそうだ。
その証言から国で試したところ、現在のマキソウタイで壊せるのは第二世代だと1番目のストレージで、第三世代だと2番目のストレージが限界だったらしい。
そしてストレージは壊れても証言通り、自動で修復したのだそうだ。
「【ドルティ】が2騎だけだったから心配していたんだ。だけど良かった良かった」
「あたしは……」
エリーリの声が続くが、違和感からヴェレクが横を向くと悔しそうに俯いていた。
だが顔を上げると笑顔になる。
「あたしは適格者になれなかったけど、マキョウテンでは誰にも負けない。絶対に、絶対にこれ以上はないって所まで、上り詰めてやる……って、――ます」
「はははは! うん。ラダン地上村での作物の収穫は、ヴルームリイネン王国のみんなが期待しているからさ。でもエリーリ君、いいかい? アンデットは種類によって凶悪なものもいるから、安全第一でね?」
「はい!」「……俺も、……俺も頑張るよ」
ロイネはエリーリの返事の後に、消え入るように呟いた。
俯いたまま、まるでそのまま聞き流してくれないかとの気持ちが乗っているようだった。
「うっ、うん。そうだね。ロイネ君も、みんなも、自分の安全を第一にね」
3人が頷くとグレンクにここに座れと横の席を叩かれた。
ヴェレクだけの指名である。
適格者としての話だと分かるが、ラダンとは反対側なので従えば酔い潰せそうにない。
だが長年ラダン村の守衛団団長をしてきているだけあってか迫力が凄まじく、黙って従う他はなかった。
「あっ、お注ぎしますね!」
エリーリが哨戒船の乗員6人とラダンに酒を注いで回り始めた。
流石はエリーリである。
ラダンを酔い潰せと目で合図を送り意思を伝えた。
「お酒だけだと身体に悪いから、追加の料理も持ってきますね」
だが伝わるはずもなく一瞥して無視されるだけであった。
そしてあろうことか、酔いすぎないようにと料理を取りに行ってしまった。
裏切られた気分である。
同士を求めてロイネを探すと、端の方で小さくなっていた。
「こりゃヴェレク。よう聞いて、約束せんかい!」
重要なことに気を取られていたヴェレクはグレンクを無視していたようだった。
グレンクの更なる迫力に圧倒されながら今度は説教される。
なんとか頷けない内容は言葉を換えて納得してもらい、約束させられたのだった。
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