第八世代のマキソウタイ

秋柚 吉柄

第1話 まだ存在しないはずの第八世代

目の前に映る光景をヴェレクは眩しそうに眺めていた。

第三世代の甲板から見える朝日に照らされた久しぶりの故郷であったのだ。


15歳になったヴェレクは加護の発現を受けるべく、ラダン村島そんとうの同年の3人と領内にあるティムトス地上町へと行っていた。

ヴルームリイネン王国では15歳になった者が受けなければならない義務であるのだ。


ヴォスムティヒト辺境伯領では、役人であるルーネンが年に一回全ての島を周り、祝福の門があるティムトス神宮へと送り迎えしている。

ヴェレクはそこでマキソウタイを操縦できる適格者となる加護を授けられたと分かり、ティムトス町島に移動して第一世代で800時間の適合操縦を熟したのだ。

第二世代以降のマキソウタイを動かすには第一世代から順番に乗り継ぎ、次の世代を操縦出来るよう馴染ませる時間が必要になるためだった。


マキソウタイ。

正式名称で言えば魔素強化装甲体であり、適合する適格者が搭乗すると魔力にて操縦できるようになる。

船型は大型帆船のようであり普通に上から乗り込む感じではあるが、操縦は触れてイメージで意志を伝えるので身体の一部との認識である。

人型は巨大な全身鎧を身に着けて自身が動くことで操縦する感じであった。


村長の名が付けられたラダン村島は、辺境伯領の中でも最もに近い僻地に存在した。

発着場に着陸すると既に集まっていた村民に出迎えられる。

ルーネンは他にも送り届ける者がいるため、ラダンと少し話すと早々に飛び立って行った。


ヴェレクが村民の集まっている場所に歩みを進めると皆が不思議そうに見回していた。

ルーネンと話していたラダンが村民の疑問を代表するかのように労いの言葉の後に繋げた。


「よくやった、ヴェレク。この村島で初めての第二世代だな。――ところでルーネンは何も言ってなかったが、セルツィはどうしたんだ?」


後半を緊張気味に言うラダンに、ヴェレクは振り向かず歩みも止めずに口を開いた。


「隣の、ヤコブ村のホーネンに付いてった」

「……そうかぁ。……また引き抜きかぁ」


これで何回目だとラダンが天を仰いだ。


「国では禁止されてないし、うちでも引き抜けば良いんじゃないか?」

「ヤコブ村のやりかたは嫌いだ! お前も知っているだろうが」


ヤコブ村は力のある者を重視し、村の重鎮と適格者を一等、適性者を二等、その他を三等と選別して待遇を変えていた。

対してラダン村では、その他の者だとしても村民全員が大切な仕事をしている者として平等に扱っているのだ。


「まあな。俺も嫌いだし。けど隣の団長が狙ってるのもあるけど、こればっかりはセルツィの意思だからな」

「分かってる。だが、それにしたってなぁ――」

「えっ? セルツィ兄は裏切ったのか?」


待ちきれずに近くまで来ていた少年が露骨なことを言う。

ヴェレクは歩みを止めると大きく息を吐き出した。


「キーファ、そんなこと言うなって。もし適性者や適格者になって他に行きたくなったとしても、自分の言ったその言葉が自分を縛ることになるんだぞ?」


セルツィの行動は否定されるものではない。

自分の人生なのだから自分の好きなように生きて良いはずだ。

だが残った者からすれば言いたくなる気持ちも分からなくない。

それでもこれから可能性のある者は飲み込んでおくべきことであった。


「へん! 俺は他になんか行かねえし! ヴェレク兄ほどじゃないけど、俺だって同じようなもんだからな」

「そうだなぁ。ヴェレクはこの村が、好きだもんなぁ」

「はあぁ? 何を言ってんだ、お前等? んな訳ねえだろうが! 脳みそ付いてんのか? ほんの耳クソ程度の愛着しかねえってぇえの!」


キーファの言葉に便乗してラダンがニヨニヨと気持ち悪い笑顔を浮かべた。

それについ反応してしまった。


(くっ、こいつの痴れ言しれごとだって分かってんのに、つい言い返してしまうな)


更には離れた位置から初老のグレンクが腹を抱えて声を噛み殺して笑っていた。

その隣ではケルビも仕方がない奴とでも言いたげに苦笑している。


「お父さん! 余計なことは言わないで、村長らしくしてよね。――お帰り、ヴェレク。ラダン村が好きで残ってくれてありがとうね」


ヴェレクが目を見開いた。


「へっ? なっ、何言ってんだ、リシェル姉? ほんの耳クソ程度だって、聞こえなかったのかよ?」

「ひょっひょっひょっひょっひょっひょっひょっ。――はあぁ、はあぁ。……笑いすぎて、危うく天に召されるかと思うたわい」


グレンクが堪えきれんとばかりに仰け反った後に荒い呼吸を繰り返す。

ケルビが必死になってグレンクの背中を擦っていた。


ヴェレクは怪訝な表情で一瞥すると、天然のリシェルを見てから、その他大勢がいる場所に視線を移す。

そこで初めて一緒に行って加護が授からず、先に帰った2人がいないことに気が付いた。


(ロイネは特に落ち込んでたけど、地上村での見張りか、徹夜明けで寝てるのか?)


1人で考えを巡らせていると、キーファが待ちきれないとばかりに急かし始めた。


「そんなことよりヴェレク兄! 第二世代を貸して貰ったんだろう? 早く見せてよ、早く早く! 何番目の神の鎧なんだ?」


ラダン村島には現在2騎しか人型マキソウタイが存在しない。

どちらも旧式の第一世代であり、操縦者もグレンクとケルビで2人とも年配者であった。


加護を授かる者は少ない。

授かっても僻地を嫌って他の村や町に行ってしまう者が多かったためだ。

そのため2人に負担が掛かり、今いる場所もマキソウタイの近くである。

ヴェレクが帰ってくるまで乗り込んでいたためだと思われた。


「125番目だな。――正式名称は【ローモ125マキソウタイ】だ」


ヴェレクが言いながらストレージから人型のマキソウタイを取り出す。

主人に従うよう跪くその姿は、安っぽい全身鎧ではなくガッシリとした重装騎兵のような洗練された形状をしている。

殆ど人に近いホッソリとした形状の第一世代とは異なり、要所要所で補強された迫力のある形状をしていた。


「おおぉぉ? 【ローモ】……かっ、かっちょええ!」

「こっ、これが、第二世代? 岩の神の鎧っかぁ……」

「流石に爺ちゃん達の、大地の神の鎧【ドルティ】とは、全然違うぜ!」

「…………」


他の子供達も集まってくる。

立ち上がれば全長8メートルにもなる巨体に目を輝かせ、何を確かめているのかペタペタを触りまくっている。

第一世代の【ドルティ】は10メートルもあるので比較すれば小ぶりとなる。

だが厚みや横幅が増して厳つく、子供心をくすぐるには十分であったようだ。


(はは。第二世代に見えるよなぁ)


第一世代だけのときは気にならなかったが、第二世代が作られると区別する必要性が出て来た。

ラダン村があるヴルームリイネン王国は元々から自然の物だけではなく、自然現象などの全てを含んだ自然を信仰している国である。

神に名を付けるのは恐れ多くて大地の神とか岩の神とか呼んでいたが、神から遣わされたものとして特性に合わせた名称が付けられた。

人型は神の鎧、船型は神の乗り物として、特性に近い町にある華表に神の社を建てて神と合せて奉った。

神そのものではなく恩恵とされるマキソウタイであれば、見える特性から名称を呼ぶのに支障はなかったのだ。


1人だけ、大きい子が混じっていた。

ヴェレクの1年歳下になるヴィディである。

来年は加護の発現を受ける。

やはり気になるかとヴェレクは苦笑いを堪えた。


船型は製作時間が大幅に掛かって数が少ない。

そのため貸し出しは人型だけとなっている。

作れるようになってから3年しか経っていない第三世代も数が少ない。

それに万が一暴動があった場合に制圧する切り札となる。

そのため貸し出しは第二世代の人型だけとなっていた。


「じゃあ俺、こいつに慣れるため慣熟訓練に行ってくるから」


いつまでもお披露目のままと言う訳にはいかず、移動性能や戦闘性能を確かめるべくマキョウテンを発動させると背中へと飛び乗った。


「あっ、ヴェレク! 今日は哨戒船が来るはずだから早く帰ってきてね? たぶん第七哨戒船」

「分かった!」


リシェルに大声で返事するとマキソウタイに乗り込む。

軽く浮き上がらせると向きを変えてラダン村島から飛び出すのだった。


  ◇  ◇  ◇


望まぬ戦争が侵略国家であるヂィヴァーズル帝国によって世界中に広まり数百年。

生者は減少し死者がアンデットとなって増える一方となっていた。

だがアンデットが増えると軍隊は必ずと言って良いほど遭遇して襲われ、ヂィヴァーズル帝国の足が鈍った。

しかし農作でもアンデットに襲われる事態となり、食料の生産もままならなくなっていった。

そんな折り、世界中の国で神からの恩恵があったのだ。


人々は遙か昔から、大小の違いはあるが皆がどこかに収納できるストレージを使えた。

また一部の者に限るがマキョウテンを使える者もいた。

人類が始まった頃から何とは知らずに本能的に使用しているものである。

それがあってか神の恩恵それも特に、准世界が開かれたことに驚きはなかったのだ。


地上に蔓延るアンデットを回避しながら通った場所で、短い隧道ずいどうをくぐった時に偶然にも閃いて能力に目覚めた者がいた。


鉄を基本に金や銀に銅を決まった割合にして、なぜか頭に浮かぶ形状に導かれながら魔素を吸い取られていると、くぐっただけで異なる世界へと繋がる鳥居が出来上がるのだ。


往来が可能そうなその世界は、準ずる世界と言うことで准世界と名付けられた。

他の場所でも同様に、様々な物質になぜか頭に浮かぶ形状に導かれながら魔素を吸い取られ浸透させて形を整えていける者がいた。

それが最初の人型マキソウタイであり、生身では呼吸できなかった准世界での活動が可能となったのだ。


幾つか発見された短い隧道は祝福の門とされ、神からの恩恵として神聖地とされて施設に囲われて厳重に管理された。


准世界への鳥居は華表かひょうと呼ばれて製作する者を華表職人、マキソウタイを製造する者は特殊物職人と呼ばれる。

華表を作りマキソウタイを作るのは同じ様な力であり、流れ図として頭に浮かぶままに使用しているので使い熟せてはいない。

だがマキソウタイを操縦できる者と合せて特殊な能力を与えられた者は神から加護を授かった者とされたのだ。


  ◆  ◆


マキソウタイをゆっくりと飛ばせていたが、ラダン村島が小さくなってくると速度を上げた。

向かう方向は普段は人が通らない場所である。

久しぶりに乗ったマキソウタイであり、運動性能と勘を取り戻すためティムトス町島での練習の比ではないほどの速度で飛ばした。


製作した特殊物職人が准世界を回った場所に限定されるが、直径1キロメートルを越える巨大樹の位置形状はマキソウタイが記録する。

同じく操縦者が移動した地域も新たに記録していき、地点の登録も可能である。

操縦者が意識すると頭に浮かび上がり、目の前の景色と同期させることで現在地を把握することが出来るのだ。


複雑に絡み合った巨大樹の白い蔦が見えてくるとストレージから貸し出された<バスタードソード>を取り出した。

全長7メートルもある巨大な剣である。


作りは硬質で非常に鋭い。

だが相手にするのはマキソウタイである。

2,3騎も斬り伏せれば直ぐに斬れなくなってしまうだろう。

使い捨てとまではいかないが、都度修繕する必要があるのは間違いなかった。


目の前に仮想敵をイメージして逃げ回る盗賊に一線を描くように振り抜いた。

盗賊は上昇して逃げる。

逃がすまいと振り抜いた勢いを使って身体を回転させて回し蹴りを繰り出した。

だが盗賊は蔦の陰に逃げ込んだ。

ヴェレクも追い掛ける。

だが卑劣なことに隠れた場所から長刀の長柄武器である<グレイブ>を突き出してきた。


ヴェレクには予想できていた。

かもしれない運転である。

<バスタードソード>で弾き返すと同時に懐に入り込むが、今度は下降して逃げ出した。


「ふっ、鬼ごっこが好きか? なら付き合ってやろうじゃないか」


逃げる盗賊を追って、高い機動性を生かして蔦スレスレの位置を高速で飛び回る。


『ヂッ、ヂヂッ』


軽く接触すると、ほんの少しだけ認識を修正する。

その後は思い通りに動くのに満足し、目の前の仮想敵を霧散させると巨大樹へと降り立った。


「ふう。今だと、こんなもんかな」


ストレージに<バスタードソード>を仕舞う。

第八世代である光の神の鎧。

【ルーコ試作マキソウタイ】と試作体ではあるが、操縦性が変わらないことを確認し、使い熟せていないことにも納得した。


上に向かって何処までも伸びている蔦に手を置きその先を見据える。


(後で、マキョウテンの強化をしなきゃな)


必要なことを認識すると訓練に費やしていた時間を思い出す。


「あっ、やっべぇ、今何時だ? パルテさん達に、第二世代を借りた報告しなきゃならないのに。早く帰らないと」


パルテとは領都島ヴォスティから定期的に決まったコースを哨戒する、見回り船の一つである第七哨戒船の船長である。

第三世代の船型に同じ第三世代の人型を4騎も乗せた、盗賊と遭遇しても討伐が容易な戦力を有する。

三つのコースがあり8隻で哨戒を回しているのだそうだ。


今回は第七哨戒船がくるようであった。

船長のパルテさんを始め、6人全員が気さくな人達である。


ヴェレクは巨大樹から飛び立つと、ラダン村島に向かって大急ぎで飛んでいくのだった。

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