第6話 たまに昔の自分に嫉妬する

正直に言うと、

今の価値観に納得していても、

たまに健常者だったころの自分を嫉妬する。


好きな音楽を聴きながら、

深夜まで街を歩き回れた身体。

疲れを感じても、次の日には回復していた脳。


何も考えずに予定を入れ、

「まあ何とかなる」と思えていた感覚。


いまは、それができない。


無理をすれば、

数日、あるいは数週間、調子を崩す。

楽しい予定ですら、

体調という条件付きになる。


この現実を、

完全に受け入れられているわけではない。


ただ、違うのは、

羨ましさが自己否定に直結しなくなったことだ。


昔の自分は、

確かに自由だった。

でも同時に、止まれなかった。


今の自分は、

多くのことができない。

でも、自分の限界を知っている。


どちらが上か、という話ではない。

ただ、世界の見え方が違うだけだ。


羨ましいと思う日があってもいい。

戻りたいと思えない日があってもいい。


その揺れごと含めて、

今の自分なのだと思っている。


うつ病の人が見えている世界では、

「受け入れた」と「割り切れない」が

同時に存在している。


そして、それは矛盾ではない。

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