第4話 都合の良い言葉が響かない

資本主義に都合の良い言葉が、響かなくなった


うつ病になってから、

いくつかの言葉が、急に空っぽに聞こえるようになった。


努力。

成長。

自己責任。

勝ち組。


どれも以前は、当たり前に信じていた言葉だった。

疑うことすら、思いつかなかった。


でも、脳がうまく働かなくなったとき、

それらの言葉は、何の助けにもならなかった。


頑張れと言われても、

頑張るための機能そのものが落ちている。

成長しろと言われても、

今日は起き上がれるかどうかが限界だった。


このとき初めて、

これらの言葉が資本主義に都合よく作られていることに気づいた。


常に動ける人。

安定して成果を出せる人。

未来を前提に、計画できる人。


そういう人を基準にした世界では、

不調や不安定さは、個人の問題にされる。


でも、うつ病は脳の状態だ。

努力や意識で上下できるものではない。


それなのに、

できない状態にある人間だけが、

「甘えている」「逃げている」と切り分けられていく。


その構造が、はっきりと見えるようになった。


今の自分には、

成長よりも回復が必要で、

成功よりも安定が大事で、

将来よりも今日が優先される。


資本主義にとって都合のいい生き方ではない。

でも、人間としては、かなり自然だと思っている。


うつ病の人が見えている世界では、

価値は「どれだけ生産したか」では測れない。

今日を無事に終えられたか。

それだけで、十分な日もある。

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