第3話 小さな幸せに心から感動

うつ病になる前の自分は、かなりの完璧主義だったと思う。

やるなら全部。

中途半端は意味がない。

できるか、できないか。世界はいつも白か黒だった。


調子がいい日を基準にして、

それができない日は「ダメな日」だと決めつけていた。

できない自分には価値がない。

そうやって、自分で自分を追い込んでいた。


うつ病になって、その基準は壊れた。


そもそも、毎日同じ状態でいられない。

昨日できたことが、今日はできない。

それが「怠け」ではなく、脳の状態だと理解するまでに時間がかかった。


完璧を目指すことは、回復の邪魔になる。

そう気づいてから、判断の軸を変えた。


できるか、できないか、ではなく。

今日はどこまでならできるか。


この視点に切り替わってから、

世界の見え方が少しずつ変わっていった。


洗濯物を干せた日。

外に出て、空気を吸えた日。

何も起きなかった一日が、静かに終わった日。


以前の自分なら、

こんなことに意味を感じることはなかったと思う。

もっと大きな達成、もっと派手な成功ばかりを追っていた。


でも今は違う。

できる範囲で生きている、という事実そのものが、

確かな手応えとして残る。


うつ病の人が見えている世界は、

小さく、静かで、揺れやすい。

その分、触れたときの感触は、以前よりもはっきりしている。

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