第9話 決戦の結末 天界崩壊まであと1000年


 【転移】の光柱と共に私とマーレは降り立った。

 大口を開けて驚いている青年を見て、思わず笑みが溢れる。

 かの魔王ですら動きを止めている始末だ。

 

「まあ、驚くのも無理はないな。時間が無いから簡単に説明すると、そこで倒れているの聖女マーレは──私が【分身オルター・エゴ】で作り出したものだ」


 指を鳴らすと下半身だけとなったマーレが消えた。

 外見だけでなく記憶でさえも完璧に再現した分身。

 勇者フォルトの『未来視』が映し続けていたのは、昨晩入れ替わった分身そっちの方だったというわけだ。


 「死の運命」など私に掛かれば取るに足らん。


 まあ、苦労がなかったと言えば嘘になるがな。

 マーレの豊かな胸を、適応したばかりの魔法【巨大化】で再現するのは中々難しかった。


 ああそれと、魔王の固有能力【反撃】とやらで灰になった私も分身だぞ。

 こちらも少々大変だったな。

 私に魔法は効かないから死を偽装する必要があったのだ。

 攻撃に合わせて遠隔操作で分身を消す、など初めての経験だった。


 さて、この物語はそろそろ終幕だ。


「フォルト……!」


「……マーレ、すまない……俺を庇って……」


「いえ、謝る必要なんてありません……ううん、ないんよ。むしろ君を騙した私の方こそ堪忍な」


 二人は手を取り合い、再会を喜んだ。

 本当の意味で勇者と聖女が揃ったな。


 だが、戦いはまだ終わっていない。


「貴様ら如きが何度集結したとて、何度でも蹴散らすのみ。今度は足掻けぬよう徹底的に捻り潰してくれる!」


 魔王が闇のオーラを纏った。

 闇のマナが膨張し、城内が震え上がる。

 ありとあらゆるものを闇に飲み込もうとしているようだ。

 おそらくこれが彼奴の全力なのだろう。


 先程とは違う。

 生命を殺す為の強さを放っていた。


 生態系の頂点に相応しい存在。

 かつて災厄とも呼ばれた魔王の力。

 そんな圧倒的強者に立ち向かう者たちがいる。


「……準備はいいか? これが俺たちの、最後の戦いだ」


「……うん。私たちは最後まで一緒だよ」


 勇者フォルトは欠けた聖剣を構えた。

 聖女マーレは聖剣の欠片を宙に浮かべ、祈り始める。


 聖女の祈りが、失われた聖剣の力を呼び醒ます。

 何よりも明るく、優しい光が広がり、勇者の持つ聖剣に新たな刀身を与えた。


 光の刃は燦々と輝き、勇者を包み込む。

 「希望の象徴」の復活だ。


「……さあ、決戦だ」


 勇者フォルトが駆け出す。

 疾い。

 荒野で見た時とは比べ物にならないほど疾かった。


 新たな聖剣、聖女マーレの祈り、勇者フォルトの勇気。

 それらが一つになり、大いなる力を生み出しているのだ。


「おのれ! ちょこまかと!」


「……見える……全て……」


 魔王のありとあらゆる攻撃を見切る勇者フォルト。

 黄金の閃光が縦横無尽に駆け巡り、魔王を翻弄していた。


「貴様ッ……何処でそんな力を!! くそ!!」


「……次も蹴り、その次は衝撃波、また蹴りが来て最後に闇の波動……」


「このッ……【反撃】!!」


「……二回分、遅いな」


「なにッ!?」


 遂に魔王に攻撃が通った。

 聖なる斬撃は、闇を切り裂き、修復を許さない。

 魔王が悲痛な叫びをあげる。

 生まれて初めての痛みなのだろう。


 怒り、苦しみ、反撃しようとするが、勇者フォルトには届かない。


 諦めるのだな、魔王よ。

 お前が戦っているのは、歴代勇者の中でも間違いなく「最強勇者」なのだから。


「……そろそろだ……マーレ!!」


「うん!! 終わらせよう!! 『闇夜を晴らす、輝かしき聖光よ、我が許に顕現せよ──【聖光デア・シャイニング】!!』」


 聖女マーレの光が炸裂し、世界を白一色に変える。

 同時に勇者フォルトが駆け出し、光芒を描きながら聖剣を振り上げ跳躍。


 荒野での戦いで見せていた連携攻撃だ。

 だが、あの時よりも圧倒的な光を放っている。

 私が見てきた中で女神デア様の次に美しい光だった。


「ま、待てッ! 我は……ッ!」


「……最後までお前がいない未来を諦めなくて良かったよ──『聖光斬』!!」


 聖剣が魔王に突き刺さる。

 そして、遂に魔王は倒れた。



「……や、やった!! フォルト!!」


 聖女マーレが小動物のように跳ね、満開の笑顔を咲かせた。

 そのまま勇者フォルトに抱きつく。


「……やっと……終わった……」


 一方で呆然とする勇者フォルト。

 彼が浮かべる安堵は、魔王に倒したことだけが要因ではないのだろう。


 聖剣を手放したことで、【未来視】は使えなくなったはず。

 それ故、彼はもう未来に囚われなくても良い。

 これまでの旅路。

 大切な者を救う為に、運命に抗い続けた彼はようやく肩の荷を下ろすことができるのだ。

 

 当の聖剣は、聖書の加護を失い、魔王の肉体を礎に刺さったままだった。


「……だ」


 低い唸り声のようなものが聞こえてくる。

 神経を逆撫でるような恐ろしい音だ。


 何かに気が付いた二人は背後を振り返り、身を強張らせた。


「……まだだ……まだ我はッ!! この世界をををを!!!」


「……何ッ!?」


「う、うそ……魔王が……」


 床に伏していたはずの魔王から闇が溢れる。

 深淵のような深い深い闇だ。

 そして、闇は聖剣を取り込み、異形の者へと変貌していた。


「我ハ終わっておらヌ!! フハハ!! 我ハ忌々しキ聖剣さえ取り込み、更ニ強大な力を得たのだ!! 貴様らハ甘ク弱イ!! やはりヒューマンは滅ぶベキなのだ!!」


 本来融合するはずのない光と闇。

 世界の理を破り、禁忌へと近付いた魔王。

 その力は言葉では表せぬほど強く恐ろしいものとなっていた。


「……クソッ……マーレ、魔法は使えるか?」


「す、少しなら。フォルトは?」


「……俺はマズいな……【未来視】が使えない……」


「フハハハ!! 勇者ヨ!! 貴様の力ハ我がモノとなったぞ!! 見えるッ!! 全てがッ!!」


 強大だった魔王が勇者の切り札さえも手に入れた。

 絶望的な状況に、勇者フォルトと聖女マーレは怯む。

 しかし、諦めてはいないようで、魔王の目を盗んでお互いに鞄を探っていた。


 彼らの勇者を讃えるべきだな。


 ──だが、もうお腹いっぱいだ。


「勇者フォルト、聖女マーレよ……もう良いぞ。二人はよく頑張った。あとは私に任せるがいい」

 

 私は二人の肩を叩き、前に出た。

 魔法抑制の働きをしていた「星屑宿りし三角帽子」と「闇夜を背負う外套」を脱ぎ捨て、本来の姿に戻る。


 始天使マギウェル・デア・フィーネの降臨だ。


「……光の輪に……白い翼……それも四枚」


「し、始天使……様……!?」


「二人を騙していて悪かったな。我が名はマギウェル・デア・フィーネ。崇高なる魔法を支配し、深淵に黎明を齎す者だ。この素晴らしき出会いをどうか忘れないでほしい。私もこの物語を胸に刻もう」


 そう言って二人から離れ、魔王にゆっくりと近付いていく。

 この瞬間を忘れないように足を踏みしめながら。


「き、キ、貴様ッ! 天使かッ!!」


 泥々になった魔王は私に向かって闇魔法を放つ。

 【詠唱破棄】だった。

 下界ではかなりの高等技術とされている。

 不安定な存在にも関わらず、さすがは魔王と言った所か。


「だが……効かないな……」


 闇魔法は私に直撃したが、あえなく霧散した。


 魔法の管理者である私に魔法は効かない。

 大なり小なり、どんな魔法にも私は左右されないのだ。

 

「クソッ! クソクソクソクソクソクソクソッ!! ダメだダメだダメだダメだ!!!! 来るナッッ!!!!」


「魔王よ、見えるのだろう……? 貴様の未来が」


 聖剣を完全に取り込んだ魔王は『未来視』を手にした。

 だが、彼奴は知らなかったのだろう。

 その"重み"を。


「違ウ!! こんなハズでは!! 天使ゴトキに!!」


「聖剣を手にしたのが運の尽きだったな、魔王。そいつは勇気ある者にこそ相応しいのだ……貴様如きには身に余る力よ」


 私は魔王の元に辿り着く。

 どう足掻いても敗北する未来に苦しみ続ける哀れな魔王に。


「『奇跡解放!! 漆黒より深く、閃光より輝け、無限より来たるは我が魔法──【魔導書・顕現リベレイト・グリモワール】』」


 黒き魔導書を顕現させ、「炎属性・究極魔法」の頁を開く。

 発見に三百七十年、適応に二千年もかかった私の大好きな最高の魔法だ。

 後で天界の総合管理部には、とやかく言われるのかもしれないが、まあいいだろう。


 私も"馬鹿"だからな。


「勇者と聖女! 希望の象徴よ! 貴様らの覚悟と勇姿、確かに見届けた! 傲慢なる魔王の後始末は、この始天使マギウェル・デア・フィーネが承る! フォルトとマーレ、そして地の民に光の祝福あれ!!」


 二人ならば再び世界に調和を齎してくれるだろう。

 此度の「光臨」と私の仕事はこれにておしまいだ。


「創造と破壊を司る元素、世界を終焉へと導く炎よ。

 其の輝きは文明の証、進化の始まり。

 其の温かさは愛に等しく、生命を育む。

 其の激しさは戦火の如く、生命を終わらせる。

 不可能さえ滅ぼす強大な炎よ、我が許に顕現せよ。

 汝が始め、汝が終わらせるのだ。

 我が命ずる。

 森羅万象を灰燼と化せ──【終炎ラグナロク・イーラ】」


 魔法の始天使が操る魔法の言葉。

 無限の可能性から出でたる炎は魔王を焼き尽くした。


 そして、勇者と聖女はその炎を命尽きるまで讃えたという。 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



備考

終炎ラグナロク・イーラ


 「至高の魔術師」にのみ、当魔法の鍵を与えん。


概要

・詳細の閲覧を禁ずる。


発動手順

・詳細の閲覧を禁ずる。

  


出典

偉大なる魔術師フィーネ「究極魔法ノ書〜赤〜」, p.11.

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