第8話 大決戦! 魔王城! その2 天界崩壊まであと1000年
「フィーネ様!!」
「……クソッ!」
魔法使いが殺され、俺は毒を吐く。
また止められなかった。
玉座の間へ入る前、アイツの未来を覗いた時に分かっていたはずなのに。
聖剣を手にした時、世界を救えるかもしれないと思った。
【未来視】が覚醒した瞬間、その自信は確信へと変わった。
だが、しばらく先の悪夢のような未来を見て絶望した。
俺と関わる人間が、俺のせいで死ぬことを知った。
死にゆく一人を救えば、生きるべき数十人が死んだ。
結局俺は何も救えなかった。
「最弱勇者」ですら無かったんだ。
「フォルト! 避けて!」
馴染み深いマーレの声で我に返る。
眼前には闇が迫っていた。
辛うじて顔を横に背けるが、耳先に違和感と激痛が走る。
普段ならばかすり傷に終わったはずの攻撃。
しかし、闇属性は全てを消し去る力だ。
癒えることのない傷が俺に刻まれた。
「戦闘中に焦慮とはな。やはり貴様は脆く弱い。同族に罵られていた通りの『逃走ばかりの最弱勇者』だ。女の方も聖女とは名ばかりの足手纏いに過ぎん」
魔王がマーレを嘲笑う。
足手纏い……そんなことはない。
「やはり我は世界を統べるべき存在なのだ! 聖剣は折れ、勇者も聖女も雑魚! 懸念であった天空の小間使い共も手出しできないらしい!」
魔王の高笑いが響く。
その響きは勝者にこそ相応しいように思えた。
確かに奴の言う通りだ。
唯一の頼みの綱であった魔法使いが死んだ。
女神や天使にもおそらく見捨てられている。
やはり俺たちは──
「フォルト……行きましょう……!」
「……マーレ、だが……」
「……それでも進まねば成りません。この命ある限り」
マーレは花のネックレスを握り締め、強く言い放った。
こういう時の彼女は頼もしい。
今まで何度も背中を押してもらってきた。
やはりマーレは足手纏いなんかじゃない。
俺は白銀の剣を逆手に構えた。
「……行くぞ」
「はい!」
マーレの声を聞き、俺は静かに歩き始めた。
後ろでは鞄を漁る音が聞こえてくる。
「雑魚共が何を画策しようと無意味! 始末してくれる!」
雄叫びを上げる魔王、俺は一気に距離詰めた。
逆手に持った剣に何かが当たる。
マーレの投げた魔物特効の毒ポーションだ。
毒塗りの剣が魔王の腕を斬る。
「効かぬわッ!! 【反撃】!!」
俺の横腹付近に突如現れた闇。
ぬらりと突き出してきた黒剣をかろうじて弾く。
魔王の能力は事前に何度も"見て"きた。
「……ッ……ならコイツはどうだ──」
「──『清き水よ、湖畔を侵す者に、水に弾かれる痛みを──【
先程まで俺がいた場所に三発の水弾が飛んでくる。
それに合わせ、腰鞄から幻獣サンダーイーグルの羽根を取り出し、剣先で切り裂いた。
羽根から強烈な放電が起こり、水弾と混じり合う。
小型のワイバーンをも獲物とする幻獣サンダーイーグルの放電なのだが──
「フハハハ!! 中々面白いッ!! だが弱いなッ!!」
魔王は歓喜に震えているようだ。
俺たちの攻撃を見世物だと思っているのだろうか。
憎たらしいが、これが俺たちの限界だった。
それでも、抗い続ける他ない。
魔王が両拳で地面を抉り、黒い衝撃波を飛ばしてくる。
疾く、強烈な攻撃。
マーレが前に出た。
「『神聖なる盾よ、彼の者を守護せよ──【
「……ッ……何とか耐えてくれ!」
「薄氷の如く障壁など我が闇が粉々にしてくれる!!」
俺は白銀の剣を背中の鞘に収める。
そして、身体中のマナを掻き集めた。
「きゃあ……!」
マーレの苦しそうな声。
と同時に光の盾が壊れ、マナが霧散する。
俺はそれすらも吸収し、勢い良く剣を引き抜いた。
「……『流星斬』ッ!!」
白銀の剣が光を伴って迸る。
迫り来る黒い衝撃波に対して、白い衝撃波が相対し、爆風を巻き起こした。
白光と暗闇の粒子が拡散。
視界が一瞬、奪われる。
──まずい。
本能がそう告げた。
遅れて思考が『未来視』を発動させる。
俺の目に映ったのは「あの瞬間」だった。
数秒後? 数十秒後?
今の俺では正確に未来を捉えられない。
聖剣が折れてから弱体化してしまった力。
こんな時ですら不調のままだ。
俺は慌ててマーレを探す。
すぐ傍にいたはずの俺の大切な──
「ッ……フォルト危ない!」
──ようやく見つけた。
そう思ったのも束の間、俺は突き飛ばされた。
そして、頭上を漆黒の影が通り過ぎる。
その瞬間、全てを悟った。
マーレの死を。
未来の通り俺の仲間、いや大切な友人は俺を庇って命を落とすのだ。
「……マーレッ!! おい、しっかりしろ!!」
そう問いかけても無駄だ。
何故なら彼女にはもう耳が無いのだから。
何故なら彼女にはもう頭が無いのだから。
何故なら彼女にはもう上半身が無いのだから。
どの選択肢よりも惨い死に様。
運命に抗い続けてきた罰だろうか。
俺が選んだ未来はやはり最悪の結末だった。
「ククッ……聖女の方に命中したか。貴様であれば致命傷で済んだであろうに……自ら勝機を逃すとは、やはり足手纏いか」
俺は膝をつき、崩れ落ちる。
絶望感に打ち拉がれ、胸の奥から黒い何かが溢れた。
全て終わってしまった。
やはり無理だった。
「さあ、弱きヒューマンよ。貴様も終わりか?」
俺は──
俺は──
俺は──
答えは出ない。
マーレを失った今、俺に生きる意味など無い。
故郷の友人も、どうせ守れやしないのだから。
「ふん……惨めだな。呆気なさすら感じる。この世界が我のものになる瞬間、ここまで味気無いとは思わなんだ。しかし、大陸には有象無象がまだ蔓延っている。ヒューマンやエルフだけではない。蛆虫や草花まで、一つ残らず潰してくれよう」
魔王の言葉に、鼓膜が震える。
絶望に沈んだはずの心臓が鼓動するのを感じた。
視界の端で何かが煌めいている。
花だ。
マーレが身に付けていた花のネックレスだ。
マーレは花が好きだった。
灰色の大地に再び花を咲かせたい、と笑顔で言っていた。
俺はいつも夢みたいな話だな、と思っていた。
だが、フォルトと一緒なら出来る、とマーレは最後まで諦めていなかった。
「…………待て」
「ほう、まだやるというのか? だが無駄だ。貴様では勝てん」
俺は花のネックレスを拾い、立ち上がった。
確かに無駄だろう。
そんな事は分かっている。
だが、俺はまだ死んでない。
守らなければならないものもまだある。
マーレが死んだから次はマーレの愛した世界を。
そんな都合が良い話、これまでの犠牲者が許さないだろう。
だが、それでもいい。
どんなに恨まれても、何を言われても、俺は立ち上がらなければならないんだ。
マーレの意志を守る為に。
「……魔王……俺は貴様を討つ」
「どこまでも馬鹿な奴だ……無駄だと分かっていながら、どうして戦う?」
「……俺が勇者だからだ!」
俺は腰に携えた聖剣を引き抜いた。
俺のせいでボロボロになってしまった伝説の剣だ。
聖剣よ、もう一度だけ俺に力を貸してくれ。
あの日、弱虫だった俺に与えてくれた勇気を。
世界を救うと心に誓った決意を。
聖剣を構えると、僅かに光を放った。
朧げで弱く曖昧な光だ。
だが、確かに輝いている。
それに呼応するように背後から強烈な光が差し込んだ。
どこからともなく声が聞こえてくる。
「そうだ……! 貴様の力は『未来視』などではない! 未来に立ち向かう勇気だ! どんなに悲惨でも、どんなに過酷でも貴様は立ち上がり続けた! "勇者"フォルトよ!」
光柱と共に現れたのは死んだはずの魔法使い。
それに、大切な友人マーレだった。
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