彼の隣にいたもう一人【外伝】
私があいつ、塚原蓮と出会ったのは、
大学近くのカフェだった。
窓際の席で講義テキストを読んでいたら、
あたしの横に座って、いきなり「君みたいな子、初めてだよ」と
満面の笑みでそう言った。そんなことを言う男は怪しいと思ってたし
最初は警戒していた。
だけど、あいつは焦らなかった。
連絡は毎日じゃない。
会うのも週に一度くらい。
だからこそ、私は特別だと思った。
ある日、彼のスマホに通知が光った。
女の名前。
絵文字つき。
「誰?」と聞くと、
蓮は笑って言った。
「サークルの後輩だよ。ちょっと重いんだよね」
その言い方が、
まるで私が“選ばれている側”だと保証してくれるみたいだったから、
それ以上、何も聞かなかった。
しばらくして、私は気づいた。
親友の一人が、彼の話す「元カノ」が、何人も存在していることを
教えてくれた。
それを彼に告げたけど・・・
あいつはこう言った。
「みんな、俺に依存してただけ」
「ちゃんと向き合ってるのは君だけだよ」
私は、その言葉を信じた。
信じることで、疑う必要がなくなるから。
他人を疑うことは良くないことだと教えられてきたから・・・
だけど。
ある夜、偶然SNSで見かけた。
夜景の写真。
高級レストラン。
テーブル越しに写る、見覚えのある手。
私が知っている蓮の手。
写っていたのは、
清楚そうな、だけど少し派手目に見えた女の子だった。
胸がざわついたけど、私はアプリを閉じた。
「偶然だよね」
「本命はわたしのはず」
そう思っておく方が、ずっと楽だった。
それから少しして、
彼・塚原蓮は突然、姿を消した。
連絡がつかない。
店にも来ない。
共通の知人も、口を濁す。
後で知った。
退学。
家族との断絶。
遠くの親戚のもとへ。
私は、何も言われなかった。
しばらく経ってから、
例の清楚な子のことを聞いた。
「彼女、精神をやられて、相当参ってるらしいよ」
「元カレに助けを求めたけど、拒絶されたって」
「地元にも戻っていないらしい」
その話を聞いたとき、
なぜか、胸が痛んだ。
私たちは、
同じ夢を見せられていただけだ。
違うのは、
目が覚める順番だけ。
今でも時々思う。
もしあのとき、誰かの忠告を、ちゃんと聞いていたら・・・
でも、きっと無理だった。
あの男は、あたしに
「自分は特別だ」と思いたい人間だけを正確に見つけ出す。
そして、
そういう人間は必ず、自分から彼の隣に座る。
私は今日も、
あの夜景を思い出さないようにしている。
だって、
綺麗だったから。
そして、
綺麗なものほど、人は疑わないから。
届かなったLINE てつ @tone915
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