接触未満
雨が降り出したのは、洗濯物を取り込んだ直後だった。
間に合ったはずなのに、なぜか胸の奥が濡れたままだった。
ふと、テーブルに置いたスマホが震える。
「……お疲れさま」
『お疲れさまです。すみません、私の分の洗濯物、取り込んでおいてもらえませんか』
事務的な声。
でも、少しだけ息が切れている。
「それは、違反にはならないのか?」
一拍。
『生活維持行為なので、問題ありません』
「……そうか」
『触れなければ』
念を押すように、付け足された。
洗濯物は、すでに取り込んであった。
自分のものと三崎のものは、無意識に分けて畳んでいた。
契約書にそんな決まりはない。
ただ、そうしたほうが落ち着いた。
彼女のシャツを持つときだけ、指先に力が入る。
触れてはいけないわけじゃない。
それでも、必要以上に丁寧に扱ってしまう。
それが配慮なのか、ただの臆病なのかは分からなかった。
玄関の鍵が開く音がしたのは、その直後だった。
「……すみません、急に降ってきて」
三崎の髪は、しっとりと濡れていた。
コートの袖から、ぽたりと雫が落ちる。
俺は何も言わず、棚からタオルを取った。
差し出すと、彼女は躊躇いがちに手を伸ばす。
「……ありがとうございます」
指先が触れそうで、触れない。
その距離が、今まででいちばん近かった。
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