第9話 広がりすぎたダンジョン
最初に異変に気づいたのは、直人だった。
「……あれ?」
地下階段を降りた先。
いつもの石壁が、数メートル先に後退している。
「こんなに……広かったっけ?」
気のせいではないと理解したのは、昨日まで存在しなかった通路がいつも確認していた歩数で、確かに完成した状態で伸びている…と認識したからだ。
削られた形跡はない。
壊されたわけでもない。
単純に増えている。
「アウレリア!」
直人は、珍しく焦った声を上げた。
紫の魔女は、通路を一瞥しただけで理解した。
「……成長速度が加速してるわね」
「成長?」
「ええ。これはもうダンジョンじゃない」
アウレリアは、壁に手を当てる。
「あなたの魔力圏よ、直人」
「……は?」
「あなたが無意識に放出している魔力を空間が住処として固定している」
直人は、言葉を失った。
「止められないんですか?」
「無理ね」
即答だった。
「あなた自身が、止める理由を持っていないもの」
アウレリアは、真剣な声で続ける。
「直人、あなたの魔力は、もう人間の枠に収まっていない」
それは。
「勇者だった父親の因子。聖女だった母親の安定化能力。それが融合して――」
言葉を選ぶ。
「世界を維持する側の魔力になりつつある」
「……俺、化け物ですか」
「いいえ」
魔女は、はっきり否定した。
「あなたの住む環境がそうさせたの」
その夜。
畑で、父が倒れた。
「……おい!」
直人が駆け寄ると、父はゆっくりと起き上がる。
「……ああ、悪い」
だが、その瞬間。
地面が、波打った。
鍬を中心に、畑の土が均等に再配置される。
「……は?」
父は、自分の手を見た。
「そうか……懐かしいな」
静かな声。
「これ、限界突破の感覚だ」
直人は、息を呑む。
「父さん……?」
「魔力を超えて扱える状態だ。本来は、一生に一度きりの現象なんだがな」
父は、苦笑した。
「どうやら、お前の影響のようだな」
アウレリアは、すべてを理解した。
(直人が中心になり始めている)
(ダンジョンも、畑も、勇者も)
(このまま隠せば、事故になる)
思考を加速させると結果が見えてくる。
魔女は、王都に連絡を入れた。
「条件付きで、直人を冒険者として登録させる。だが身分は伏せるし、王国の管理下に置く」
これは、保護ではない。
緩衝材だ。
同時期。
王都では、不穏な噂が広がり始めていた。
「ダンジョンが増えている」
「いや、繋がっているらしい」
「魔王が、復活に向けて動いているとか……」
教会も、ざわつく。
「聖性が、分散している」
「固定できない」
「魔王復活の兆候では?」
誰も、正解に辿り着けない。
王と教会の混乱は広がる。
王は、報告書を握り潰した。
「魔王ではない。だが、魔王より厄介な存在が生まれつつある」
一方、教皇は違う結論に至る。
「奇跡が散っている。ならば再び象徴が必要だ」
双方、同じ現象を見て、真逆の判断を下した。
直人は、冒険者登録書を見ていた。
「……俺が?」
「ええ」
アウレリアは、微笑む。
「隠す段階は終わり。あなたは、動くことでしか止まらない存在よ」
地下で、ダンジョンが静かに広がる。
畑で、父の力が完全に定着する。
王国は、魔王復活を疑い。
教会は、奇跡の再固定を狙う。
誰も気づいていない。
魔王ではない核が、すでに存在していることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます