第7話 聖性は人から奪える


 王都・教会地下。


 石造りの円卓を囲むのは、教皇直属の幹部たちだった。


「日本側の農家ルートは、完全に閉じました」


 報告役の司祭が、淡々と告げる。


「独占契約は拒否。供給の安定化も不可能です」


 沈黙が落ちる。


 だが、誰一人として驚いた様子はなかった。


教皇は冷静に口を開く。

「想定内だ」


 教皇は、指を組んだまま言った。


「人間は、偶に正しい拒否をする。だが問題ない」


 司祭の一人が、確認する。


「では、次の段階へ?」


「ああ」


 教皇は、微笑んだ。


「人を囲えぬなら、概念を囲えばよい」


それは聖遺物の再定義という事。


「そもそも」


 教皇は、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「聖遺物とは、何だ?」


 若い司祭が答える。


「聖人・聖女の遺した物、あるいは身体の一部……」


「違う」


 教皇は、即座に否定した。


「それは分かりやすい定義だ」


 円卓の空気が、張り詰める。


「本質は、死んだ人間に意味を固定する装置だ。英雄は、生きていれば制御できぬ。だが死ねば、物になる」


若い司祭の喉が鳴る。


「勇者と聖女は、確かに死んだことにしてある。王は、そう判断した」


 教皇の口調には、わずかな苛立ちが混じる。


「だが、死んだと信じる者が多いほど…聖性は増幅される。肉体が無くとも、物語は残る」


だから、と教皇は繋ぐ。


「日本側の農地は使えぬ。ならば」


 教皇は、卓上の地図に指を置いた。


「王都周辺の聖地化を進める」


司祭達はどよめく。


「それはどう言った意味でしょうか?」

「伝承を集めろ。奇跡を編集しろ。かつて勇者と聖女が立った地を増やせ」


一気に言葉の波をぶつける。


「意味とは、後から付いてくるものだ。理解、したな。では行動で示すのだ」


 司祭たちは、一斉に頷く。


そして聖地とは何か、その道標を与える。


「聖地とは、場所ではない。そう信じた人間の数だ。作物は、後から付いてくる」


一拍おく。


「水も、土も、空気も――聖性を帯びる」



【王城・非公開会談】

 同じ頃。

 王城の奥で、王は一人の報告を受けていた。


「教会が、王都近郊で巡礼計画を進めています」


 王は、深く息を吐いた。


「……やはり、か。勇者と聖女を死んだことにした意味を奴らは理解していない」


王の本音を語り出した。


「英雄は、人だ。生きて悩み、間違え、時に王に刃を向ける存在だ…だから私は、彼らを物にさせなかった」


 王の拳が、机に置かれる。


「教会は違う。奴らは、人が死んで初めて安全だと考える」


非公式となった会議。

限られた貴族だけの非公開の会談は明け方まで続いた。




その頃、アウレリアは書簡を読んでいた。


 教会が指定した新たな聖地の一覧を魔術式で手に入れたからだ。


 どれも、不自然だった。


「……速すぎる」


 地図を広げる。


 点と点が、線で繋がる。


「これは、作ってる?」


 聖地を。聖性を。物語を。


魔女の直感が知らせる。

「人を諦めた時、連中はもっと危険になる」


 アウレリアは、立ち上がった。


「……見張り直さないと。今度は、直人だけじゃない」


新たな魔法陣が展開される。


「世界そのものを、だ」


水晶に映る、直人を眺めながら呟いた。





 綾人は、今日も畑に水をやる。

 その背後で…。


 異世界では、聖性が「人を離れて」動き始めていた。

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