第11話 ページの向こうで、立ち止まる
ページの向こうで、立ち止まる
彼女は、
その章を読み終えて、
すぐに次のページをめくらなかった。
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派手な出来事は、
何も書いていない。
殴り合いも、
怒号もない。
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それなのに、
胸の奥が、
静かに痛んだ。
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バスケのコートに立つ、
悠矢。
歓声。
汗。
勝利。
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その裏側で、
駅前を歩く、
愁也。
夕焼け。
短い会話。
同じ時間。
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彼女は、
そこで初めて気づく。
この物語は、
強い男たちの話じゃない。
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選ばなかったものの話だ。
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前に出なかった理由。
目立たなかった理由。
勝ちを取りに行かなかった理由。
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それは、
逃げじゃない。
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愁也は、
守る場所を選んだ。
悠矢が前に立てるように。
誰かが帰ってこられるように。
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彼女は、
キーボードに手を置いたまま、
動けなくなる。
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自分は、
どちらだろう。
前に立つ人間か。
後ろに立つ人間か。
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答えは、
すぐに出ない。
でも、
一つだけ分かった。
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どちらも、
同じ強さを持っている。
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彼女は、
メッセージを打つ。
短く。
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「ねえ」
「愁也って人、
すごく優しいね」
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少し間があって、
返事が来る。
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「だろ」
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それだけ。
でも、
その一言に、
すべてが詰まっていた。
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彼女は、
画面を閉じる。
そして、
この章のタイトルを、
もう一度読む。
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選ばなかったコート、
選んだ時間。
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彼女は思う。
この章があるから、
物語は崩れない。
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強さが、
一つじゃなくなる。
友情が、
殴り合いだけにならない。
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そして、
悠矢が語りすぎてしまう理由も、
少しだけ分かった。
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語りたかったのは、
自分じゃなくて、
相棒だった。
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彼女は、
小さく息を吐く。
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この物語に、
恋は書かなくていい。
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これは、
二人の友情に送る話だから。
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そうして彼女は、
次の章へ進む。
⸻
相棒という名前の、
居場所へ。
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