第4話 相棒になるという選択
相棒になるという選択
それは、
大げさな出来事じゃなかった。
誰かが倒れたわけでも、
派手な喧嘩があったわけでもない。
ただ、
選ばなければならない瞬間が来ただけだ。
⸻
期末試験が終わった頃。
校内の空気が、妙に荒れていた。
他校との小競り合い。
先輩たちの代替わり。
居場所を探す連中が、
あちこちで火種を作っていた。
悠矢の周りにも、
自然と人が集まる。
「一緒に行こうぜ」
「名前出せば、相手引く」
悪くない気分だった。
自分が前に立てば、
場が動く。
⸻
だが、
愁也は違った。
「数が増えるほど、
制御できなくなる」
放課後の教室で、
静かに言った。
「全員を守れない」
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悠矢は、
その言葉に引っかかった。
「守るって、
誰を?」
「仲間だろ」
愁也は即答する。
「巻き込んだ以上、
責任が出る」
⸻
悠矢は、
少しだけ黙った。
その夜、
小さな揉め事が起きた。
人数は少ない。
でも、相手は刃物を持っているという噂。
周りが騒ぐ中、
悠矢は立ち上がった。
いつもの癖で、
前に出ようとする。
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その時、
愁也が横に並んだ。
後ろじゃない。
前でもない。
隣。
「今回は、
俺が言う」
そう言って、
一歩だけ前に出る。
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相手に向かって、
淡々と話す。
逃げ道。
条件。
落とし所。
殴る話は、
一切しない。
それだけで、
相手の肩から力が抜けていくのがわかった。
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話が終わったあと、
悠矢は言った。
「俺、
何もしてねぇな」
愁也は、
首を横に振る。
「いた」
「それで、
十分だった」
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その言葉で、
悠矢は理解する。
前に出ることだけが、
役割じゃない。
立っているだけで、
意味になる瞬間がある。
⸻
帰り道。
二人は、いつものように並んで歩く。
悠矢が言う。
「なぁ」
「俺が前、
行っていいか」
愁也は、
少し考えてから答えた。
「条件がある」
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「俺が止めたら、
止まれ」
「無理な時は、
俺が行く」
「その時、
お前は考えるな」
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悠矢は、
笑った。
「楽だな、それ」
「だろ」
愁也も、
小さく笑う。
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その夜、
二人は決めた。
どちらが上かじゃない。
どちらが強いかでもない。
役割を分ける。
前に出る者。
後ろを見る者。
⸻
それは、
拳の契約じゃない。
言葉の約束でもない。
ただ、
同じ方向を向くという選択だった。
⸻
その日から、
悠矢が前に出る時、
愁也は必ず後ろに立った。
それが、
自然になった。
⸻
相棒になるというのは、
仲良くなることじゃない。
迷わなくなることだ。
二人は、
それを高校一年の終わりに、
静かに手に入れた。
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