第3話 ぶつかる二人

高校で、初めてぶつかった。


高校に入って、

二人は同じ校舎にいた。


それだけで、

少し距離が縮まった気がした。


だが、

同時に気づいてしまった。


――こいつとは、

同じじゃない。



悠矢は、

相変わらず前に出るタイプだった。


名前が知られるのも早く、

問題になるのも早い。


中学の頃より、

少しだけ頭は冷えていたが、

根本は変わらない。


引かない。

迷わない。

考えるより先に体が動く。



愁也は、

まるで逆だった。


成績は良く、

教師からの評価も高い。


必要以上に目立たない。

でも、

誰よりも状況を見ている。


危ない空気を察知すると、

一歩先に動く。


喧嘩を避けるために。

あるいは、

避けられないなら、

最小で終わらせるために。



それが、

衝突の原因になった。



ある日の放課後。

他校の連中が校門前に現れた。


噂はすぐに広がる。


「来てるぞ」

「中学の時の因縁らしい」


悠矢は、

何も言わずに立ち上がった。


それを見て、

愁也が言う。


「行くな」


低い声だった。


「今じゃない」



悠矢は、

足を止めなかった。


「逃げるのか?」


振り返りもせずに言う。


愁也の眉が、

ほんの少しだけ動いた。


「違う」


「勝ち方がある」



悠矢は、

そこで初めて振り返った。


「勝ち方?」


その言葉が、

気に障った。


「喧嘩に、

 勝ち方もクソもあるかよ」



二人の視線がぶつかる。


空気が、張りつめた。


周りの生徒たちは、

どちらも止められなかった。



愁也が言う。


「今出たら、

 学校ごと潰れる」


「停学で済まない」


「仲間も巻き込まれる」


一つずつ、

冷静に並べる。



悠矢は、

拳を握った。


「だから何だ」


「目の前でナメられて、

 黙ってろって?」



その瞬間、

愁也の声が少しだけ強くなる。


「俺は、

 無駄に失うのが嫌なんだ」


その言葉に、

悠矢は初めて怯んだ。



「……お前、

 怖いのか?」


悠矢の問いは、

挑発だった。


愁也は、

即答した。


「怖い」


一切、迷いがない。


「だから、

 考える」



その答えが、

悠矢の胸を打った。


怖いと言い切る。

それでも引かない。


それは、

中学時代の自分には

なかった強さだった。



その日は、

衝突しなかった。


悠矢は、

結局校門を出なかった。


納得したわけじゃない。

ただ、

足が止まっただけだ。



帰り道、

二人は並んで歩いた。


沈黙が長い。


先に口を開いたのは、

悠矢だった。


「……ムカつくな」


「どこが」


「全部」



愁也は、

少しだけ笑った。


「それでいい」


「ぶつからない相棒は、

 信用できない」



その言葉で、

悠矢は理解する。


こいつは、

自分を止めたいんじゃない。


無駄に失わせたくないだけだ。



高校で、

初めてぶつかった日。


この時、

二人はまだ噛み合っていない。


でも――


歯車が、

同じ方向を向き始めた夜だった。

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