第16.5話

「……これ」


 妹が、棚の奥から小さなケースを取り出した。


「医療セット?」

「ナノマシン式」


 説明が、短い。


重度外傷対応

内部損傷修復

再生補助

使用制限なし


「……制限、なし?」

「回数も?」


 妹が値札を見る。


「……安い」


 安い、という言葉が

ここで一番おかしい。


「万が一さ」

 妹が言う。

「変なところで事故っても、

 これあれば平気だよね」


「……たぶん」


「それに」


 一拍。


「余ったら、

 地球で売れるかも」


 冗談みたいな口調だった。


「医療系なら、

 言い訳つくし」


 “売る”じゃない。

 “役に立つ”。


 その言い換えが、

 選択を一段軽くする。


「武器じゃないし」

「……そうだな」


「ケガ治すだけだし」

「……そうだ」


 スーツは警告を出さない。

 ステーション規約にも、

 引っかからない。


 完全に、無害な買い物だ。


「じゃ、これも買お」


 確認画面。

 承認。


 ケースは、

 静かにインベントリに追加された。


 その中に入っているものが、

 地球の医療史を終わらせる可能性を持っていることを、

 誰も口にしなかった。

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