第5話 誘拐を依頼しました。
宇喜多家の寝返り交渉
普通に考えて、無理である。
だってそうだ。
宇喜多家と毛利家、
領地がベッタリ隣同士。
裏切った瞬間、
「はい毛利軍です。
お届けにあがりました(武力)」
で宇喜多家は完全終了である。
交渉?
説得?
理想論?
そんなもん戦国時代には存在しない。
ということで、僕は天を仰いだ。
(……やるか)
(あれを)
(人質)
はい、
息子誘拐コース突入。
俺も完全に犯罪者である。
……いや、殺人しまくってる。
もうとっくになってたわ。
戦国時代、
人質は名刺交換みたいなもんだ。
「はじめまして」
「こちら息子です」
「ではこちらも息子を」
平和とは。
ニンニン。
困った時の伊賀の里。
今日も安定の外注犯罪である。
前と同じ部屋。
前と同じ畳。
前と同じ
伊賀の上忍三人衆、正座。
(もう顔見知り)
上忍Aが言う。
「中田玄白殿。
ご活躍は、
“色々”と伺っております」
(“色々”が怖い)
「さて、今回の依頼は?」
僕は、
さらっと言った。
「宇喜多家の息子を、
二人ほどさらってきてください」
三人、
一瞬だけ目を閉じる。
上忍B。
「……それですと、
一人分のお値段では――」
「前回と同じ金額でお願い申す!!」
即土下座。
上忍C。
「……今回は、
二人ですから――」
「お願い申す!!!」
さらに深い土下座。
沈黙。
三人、
無言で見つめ合う。
(あ、これダメか?)
と、その時。
上忍A。
「……領国貨幣、
三千二百枚で」
「ありがとうございます!!!」
即答。
(交渉、勝利)
いやぁ、取引成立。
顔なじみになると話が早い。
伊賀忍者界隈で
僕のポイントカード、
たぶんもうゴールド。
さて、
次は脅迫文である。
僕は筆を取った。
ムスコヲアズカッタ
カエシテホシケレバ
モウリヲウラギレ
……。
(ダサい)
(カタカナが悪い)
(LINE感覚)
何度も書き直したが、
どうにもこうにも、
小学生の怪文書にしかならない。
最終的に
「明智くん、頼む」
文才、
全投げ。
さすが明智君、
恐ろしく丁寧で、
理屈も通っていて、
なおかつ心が冷える文章を書き上げた。
(こいつ絶対、 後世でやらかすな)
期間は六ヶ月。
暗殺より半分。
(やっぱ誘拐って、 “ソフト案件”なんだな)
たぶん
遊んでる時とか、
寺子屋帰りとか、
「おじちゃんと
かくれんぼしようか?」
犯罪的なやつだろう。
伊賀忍者、
子供対応もプロ仕様。
そして五ヶ月後。
宇喜多家の息子、
二人。
僕の目の前に、
ちょこんと座っていた。
(……来た)
僕は精一杯、
優しい声を出す。
「怖くないよー。
ほら、
オモチャだよー」
(木刀)
「…………」
完全沈黙。
目が、死んでいる。
そりゃそうだ。
誘拐されてるんだもん。
僕は、一瞬だけ胸がチクッとした。
(ああ……
やっぱり少し、
罪悪感あるな……)
だが、自分に言い聞かせる。
(大丈夫だ)
(すぐ終わらせる)
(戦争を)
(終わらせて)
(解放する)
「ごめんね」
小さく、
そう呟いた。
二人は、
何も言わなかった。
戦国時代。
優しさは、
だいたい遅れてやってくる。
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