第12話 裏切らせました。

第2次 長篠の戦い

武田軍へ総攻撃の準備に入った。


程よく寝返り交渉が終わった、その瞬間だった。

戦場の空気が変わった。


馬防柵の内側、長く沈黙していた鋼鉄の獣たち装甲車三十両が現れる。


「……ようやく出番か」


誰に言うでもなく、俺は呟いた。


そして火薬と油の匂いが、戦場の風に混じる。


「火炎放射器部隊、前へ!

クロスボウ隊、射線を確保しろ!

装甲車、横列展開、突撃準備!」


号令が飛ぶたび、地面が震えた。


武田軍は、まだ“騎馬の戦”をしていた。

だがこちらは違う。


「撃てぇぇぇっ!!」


クロスボウガンの一斉射。

空を裂く重い矢が、武田の前衛を押し潰す。

盾ごと貫かれ、隊列が乱れる。


その隙を逃さず――


「火を入れろ!」


火炎放射器から噴き出す炎が、

馬防柵を越えて赤く舐め上がる。

馬が嘶き、兵が散る。

もはや統制はない。


「今だ、装甲車! 前進!!」


鋼鉄の車輪が、土と屍を踏み越えていく。

かつて無敵と謳われた武田騎馬隊は、

装甲車の前では“道端の影”にすぎなかった。


「向かってくる者は。いない?」


そう、誰も来ない。

武田軍も北条軍も、敗走していた。


その時、戦場に走る叫び。


「真田殿が真田幸隆が寝返ったぞ!!」


その一声で、武田軍は完全に崩れた。


「織田軍、突入!

徳川軍、右から押し込め!

真田軍、中央を割れ!」


怒号と鉄の衝突音が重なり、

戦場は地獄の坩堝と化す。


俺は装甲車の上から叫んだ。


「退くな!

ここで退けば、今日まで死んだ者たちが浮かばれん!

踏み込め! 押し切れ!!」




武田の武将たちは、次々と撃ち倒されていった。

ただの兵ではない。

旗を持つ者、采配を振るう者、

幾度も修羅場を潜り抜けてきた歴戦の将たちである。


最初に前へ出たのは土屋貞綱(忠兵衛尉)。

装甲車の前に陣取り、部隊を叱咤する声が戦場に響いた瞬間、

クロスボウの斉射が、その隊列を正面から押し潰した。


続いて土屋昌続(平八郎)。

兄の名を呼び、なお踏みとどまろうとしたが、

火線の網の中で隊旗が崩れ、彼の姿は兵の波に呑まれて消えた。


中央左翼。

内藤昌秀(源左衛門)が隊をまとめ直そうと前進する。

だが装甲車の側面火器が火を噴き、

一瞬で“進軍”は“後退”へと変わった。


禰津月直は、退かぬ構えを見せた。

しかし後続が撃ち伏せられ、

彼の立つ場所だけが、戦場から切り取られたように孤立する。


波合胤成(備前守)、名和重行(無理之助)。

彼らは互いに合図を交わし、最後の突撃を試みたが、

火炎放射器の炎が進路を遮り、

その“覚悟”だけが、前線に残された。


最も壮絶だったのは、この一帯だ。


馬場信春(美濃守)。老将は騎馬を進め、

「ここが死に所」とばかりに前へ出た。

しかし鉄と火の壁は、経験も勇名も区別しなかった。


原昌胤(隼人佐)、原盛胤(甚四郎)。

兄弟の隊が並び立つも、一斉射撃で間が裂かれ、

再び合流することはなかった。


堀無手右衛門は、討たれた将の旗を拾い上げ、なお進もうとしたが、

次の瞬間、その旗だけが地に残った。


望月信永。彼の隊は最後まで整然としていた。

だからこそ、撃たれた瞬間の崩れ方が、

戦場にいる誰の目にもはっきりと映った。


戦場の空気が変わったのは、

山県昌景(三郎兵衛)が倒れた時だ。


赤備えの列が、まるで糸を切られたかのように止まり、崩れる。


山県昌次(甚太郎)、横田康景(彦十郎)、

米倉重継と次々と隊が飲み込まれ、

武田軍の“芯”が折れていくのが、誰の目にも分かった。


山本菅助(二代目)も、父の名を背負ったまま、ここで終わった。


最前線の端、和気宗勝(善兵衛)、和田業繁(右兵衛大夫)。


退路を守るために踏みとどまったが、もはや守る“軍”そのものが、存在していなかった。

……ざっと数えても、三十九名。

一度の戦で、これほど多くの名のある武田武将が討死する。



一度の戦で、ここまで多くの将が倒れるとは。

それだけ、この戦は“間違いなく終わらせる戦”だった。


そして


「武田信玄を討つ!」


僕は装甲車を、

風林火山の旗が翻る本陣へ向けた。


中央。


そこに、椅子に腰掛けた男がいた。


甲斐の虎、武田信玄。


「我こそは、中田玄白なり!!」


僕は装甲車を降り、戦場に立つ。


「この戦、策でも、運でも、天命でもない。

終わらせに来た」


武田 信玄は、逃げなかった。

ただ、こちらを見据えていた。


戦場には、まだ炎が燃えていた。

倒れた武将たちの名が、風に流れていく。


この一日が、

武田という時代の最期だった。

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