第11話 密談しました。

夜半。

陣の外れ、灯りを落とした小さな天幕。


甲冑を外した武田の使者が、静かに座していた。

顔を伏せているが、その気配は鋭い。


真田幸隆。

武田二十四将の一人。

昌幸の父にして、のちに幸村の祖父となる男。


こちらからすれば、

喉から手が出るほど欲しい人材だ。


敵の陣形を知り、

武田信玄“本物”の顔を知る人物。


戦を終わらせる刃にもなれば、

決定打にもなる。


沈黙を破ったのは、武田の使者だった。


真田幸隆

「……こうして話の場を設けてもらっただけで、

ありがてぇ話ずら」


明智光秀

「こちらも、無駄な血は流したくありません。

本題に入りましょう」


幸隆の目が、わずかに細くなる。


真田幸隆

「率直に言うずら。

武田は……先が見えねぇ」


その一言に、空気が張りつめる。


真田幸隆

「勝頼様は若ぇ。

勢いはあるが、引き際を知らねぇ」


明智光秀

「……では、真田殿は」


真田幸隆

「わしは“家”を残してぇずら」


核心だ。


僕は口を挟まず、ただ息を殺す。


真田幸隆

「条件を出させてもらうずら」


明智光秀

「聞きましょう」


真田幸隆

「我が身の命、

それから配下の将と、その家族の命の保証」


光秀は、表情一つ変えない。


真田幸隆

「さらに、今ある領地の安堵。

一寸たりとも削らねぇで欲しい」


重い条件だ。

だが


明智光秀

「それは“対価”としては、妥当ですね」


幸隆の眉が、わずかに動く。


明智光秀

「その代わり、

こちらも条件を出します」


真田幸隆

「……聞こうずら」


明智光秀

「武田への総攻撃の時期、

本陣の動き、

そして」


一拍。


明智光秀

「“本物の武田信玄”の所在と見分け方」


その瞬間、

幸隆の目が鋭く光った。


真田幸隆

「……そこまで、踏み込むか」


明智光秀

「戦を終わらせるためです」


沈黙。

遠くで、夜警の足音が聞こえる。


幸隆は、ゆっくりと息を吐いた。


真田幸隆

「信玄公には、影が多いずら」


真田幸隆

「だが……

首の傷、声の癖、

馬の乗り方」


真田幸隆

「本物は、わしが分かる」


勝負あった。


明智光秀

「では、約束しましょう」


真田幸隆

「……頼むずら」


その声には、

武田への未練も、

敗者の悲哀も、

すべてが滲んでいた。


天幕を出たあと、僕は思った。


生き抜くって、

本当に大変だ。


運も、

判断も、

一歩間違えれば首が飛ぶ。


戦国時代も、

現代も、

結局は同じ。


勝てば官軍。

負ければ賊。


だが今夜、

歴史は確かに、

静かに動いた。


次に血が流れるのは、武田だ。

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