第10話 穴に落ちました。
僕の仕掛けた釣り野伏せは、完全に決まった。
武田軍は統制を失い、山道を割るようにして退いた。
やがて僕は、馬防柵の内側で待つ織田・徳川連合軍と合流した。
◇◇◇
武田陣・敗走の報
敗走して戻った武田兵を、諏訪勝頼が睨みつける。
武田兵(山梨弁)
「も、申し訳ねぇ……伏兵が……」
諏訪勝頼(山梨弁)
「おめおめ逃げ帰ってきただけか!
それでも武田の兵か!」
武田兵
「……っ」
諏訪勝頼
「言い訳すんな!
身の程を知れし!」
初陣での失態。
勝頼の胸は怒りと焦りで焼けついていた。
諏訪勝頼
「これより!
織田軍へ上翼突撃の陣を敷く!
騎馬隊、出るずら!」
◇◇◇
山本勘助の諫言
山本勘助
「勝頼どの……
形勢が悪ぃと思ったら、必ず引き返してくだされ」
だが、勝頼の耳には届かない。
諏訪勝頼
「武田の騎馬が負けるわけねぇずら!」
山本勘助
(……若さが、命取りになる)
山本勘助
「真田どの。
勝頼どのの援護、頼むずら」
真田幸隆
「……承知した」
その目は、すでに“先”を見ていた。
第二次・長篠
僕は馬防柵の内側から、迫る土煙を見つめていた。
――来る。
地鳴りのような音。
馬の蹄が大地を叩く振動。
武田兵
「行くずらぁぁぁ!!
武田ぁぁぁ!!」
鬨の声とともに、騎馬隊が突っ込んでくる。
次の瞬間
ドスン!
馬が消えた。
正確には、“地面に飲まれた”。
穴だ。
武田兵
「うわっ……!?」
前の馬が落ち、後ろの馬が止まれず突っ込む。
将棋倒し。
馬が暴れ、悲鳴を上げ、起き上がれない。
武田兵
「抜けねぇ!
馬が動かねぇずら!」
その瞬間。
「撃てぇぇ!!」
ぱん!
ぱん!
ぱん!ぱん!
鉄砲の音が、空気を裂いた。
銃弾は、鎧を叩き、馬を倒し、
突撃の勢いを根こそぎ奪っていく。
武田兵
「ぐっ……!」
「助け……!」
馬が崩れ落ち、
乗っていた兵は地面に叩きつけられる。
起き上がろうとした瞬間、
次の銃声。
ぱん!
動きが止まる。
別の穴では――
馬が落ち、兵が下敷きになり、
仲間が引き抜こうとしている。
武田兵(山梨弁)
「引っ張れ!
置いてくでねぇ!」
だが
ぱん!ぱん!
二人とも倒れた。
叫び声は次第に減り、
残るのは銃声と、馬の荒い息だけ。
勝頼、突進
武田兵
「勝頼様!
敵は用意周到で、突撃できねぇずら!」
諏訪勝頼(山梨弁)
「……このまま引けって言うのか!」
真田幸隆
「冷静になりなされ。
まだ立て直せるずら」
諏訪勝頼
「黙れ!
武田の騎馬は無敵ずら!」
勝頼は馬腹を蹴った。
その背を見て、真田は悟る。
(……武田家は、ここで尽きるかもしれねぇ)
(我が真田、
生き残る道を選ばにゃならん)
銃声の嵐の中。
勝頼の馬が跳ね、
次の瞬間、崩れた。
勝頼は地に投げ出される。
立ち上がろうとした、その時。
ぱん。
諏訪勝頼は、二度と動かなかった。
戦国とは、
忠義よりも、
勇よりも、
”生き残るか否か”だけが問われる時代。
僕は、煙の向こうで立ち尽くしながら思った。
次は、真田だ。
その夜、
真田家の使いが、僕の前に密かに陣を訪れた。
寝返りか。
不戦か。
戦は、まだ終わっていなかった。
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