第9話 奇襲をしました。
北条合流・武田陣
その頃、武田軍は援軍の北条軍と合流していた。
赤備えと北条の旗が並び、陣は一気に膨れ上がる。
山本勘助
「これで兵力は向こうを上回ったじゃん。あとは一気に押し潰すだけずら」
武田信玄
「……だども、追撃隊が全滅したのは気に食わんに」
信玄は地図を叩いた。
苛立ちは隠しているが、声は低く荒れていた。
武田信玄
「次は逃がさん。騎馬隊、先陣を出せ」
そのとき、一人の若武者が一歩前へ出た。
諏訪勝頼
「お館様。この戦、わしに先陣を任せてくりょう」
陣がざわつく。
武田信玄
「……勝頼か」
諏訪勝頼
「初陣なりとも、命は惜しまん。武田の名を、必ず示すずら」
信玄はじっと息子を見つめ、やがて頷いた。
武田信玄
「よい。この戦で名を刻め」
若き勝頼の目が、ぎらりと光った。
◇◇◇
二か月後・奇襲開始
穴は掘り終え、馬防柵も組み上がった。
準備はすべて整った。
あとは、敵を「走らせる」だけ。
夜明け前、僕はくノ一とクロスボウガン部隊を率い、山へ入った。
息を殺し、足音を消し、斜面を回り込む。
武田軍の背後。
陣では釜が焚かれ、湯気が立っている。
(……食事中か。今しかない)
戦場の食事は豪華になる。
白米、大豆味噌の汁。
死ぬ前に腹を満たすための、最後の配慮。
(悪いな。でも、戦だ)
僕は手を上げた。
「今だ。くノ一、クロスボウ、突撃!」
「「「うわぁぁぁ!」」」
山の茂みが弾けた。
矢が飛ぶ。
背中を向けた兵が次々と倒れる。
武田兵
「な、なんじゃ!? 後ろずら!」
別の兵
「織田だ! 織田が来たぞ!」
混乱は一瞬で恐怖に変わった。
僕は叫ぶ。
「前へ出るな! 撃ってすぐ下がれ!」
狙いは勝ちじゃない。
逃げる姿を見せること。
武田の将が怒鳴る。
武田軍将(山梨弁)
「卑怯もんが!
逃がすな! 追えぇ!」
来た。
(よし……追ってきた)
僕は矢を放ちながら、計画通り撤退する。
「ついてこい……そうだ、もっとだ」
……だが。
…………。
……おかしい。
(……静かすぎる)
振り返っても、伏兵の気配がない。
(待て、待て……
伏兵は、どこに置いた?)
森の中。
風が葉を揺らす音だけがする。
(まずい)
武田兵(遠く)
「おい! いたか!?」
別の声
「こっちじゃねぇぞ!」
背筋が冷たくなる。
僕の周囲には、くノ一が五人だけ。
他は散った。
武田兵
「いたぞ!」
「ぐあぁっ!」
仲間の悲鳴。
短い。切れた。
(殺られた……)
喉が鳴る。
(援軍は来ない。
伏兵も見えない)
足軽たちが、じりじりと距離を詰めてくる。
武田兵
「敵将だ!!!
囲め!」
(……ここまでか)
頭をよぎる。
刺される。首を取られる。晒される。
(自害は、したくないな……)
歯を食いしばる。
反転
武田兵
「討ち取れぇぇ!」
その瞬間
ぱん!
ぱん!
ぱん!
火縄の閃光が、森を裂いた。
ぱん!ぱん!ぱん!ぱん!
悲鳴が重なる。
茂みに隠れていた中田軍の鉄砲隊が武田軍に一斉に連射し始めた。
武田兵
「ぐぁっ!」
「伏兵だぁ!」
茂みが一斉に動いた。
鉄砲隊。
すぐそこだ。
信じられないほど近い。
(……いたのかよ)
膝が震えた。
煙の向こうから、声がした。
「殿。見事な釣り野伏でございました」
部下の明智くん、だった。
「……うん。なかなか、だっただろ」
(嘘、伏兵部隊、こんな近くにいたの、早く声をかけてよ。)
声が裏返りそうになるのを必死で抑える。
脚の力が抜ける。
(……死ぬかと思った)
武田兵の叫びが、森に消えていく。
どちらが罠を仕掛けたのか。
最後まで分からないのが、戦というものだ。
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