第8話 穴を掘りました。

川戦勝利後・野戦築城開始


川での戦いに勝利したとはいえ、武田軍はまだ健在だった。

追撃戦ではない。次は「迎え撃つ」戦だ。


朝霧の残る山際で、斧の音が響いている。


ザン、ザン、ザン――


若い木が倒れ、足軽たちが一斉に声を上げる。


「よっこらせぇ!」

「気ぃつけろ! 枝引っかかるぞ!」


汗まみれの足軽たちが、切り出した木を担いで坂を下りていく。

まだ鎧も揃わぬ者たちだが、顔は真剣だった。


木を運ぶ足軽たち


「旦那、この木、どこまで運びゃええですかい?」


僕は土に刺した杭を指さす。


「そこまで。あそこに並べて、馬防柵にする」


「ははっ!……しかし、えらい量ですなぁ」


「武田の馬を止めるには、これくらい要るんです。」


足軽は苦笑しながら木を担ぎ直す。


「止まってくれりゃええですがねぇ。武田の騎馬は、化け物みたいだって話ですぜ」


「だから止めるんだ。止まらなきゃ、全部意味がない」


足軽は黙って頷き、再び走り出した。


穴掘りの現場

別の場所では、すでに地面が掘り返されている。

落とし穴のように深く、だが不自然にならない程度。


僕も鍬を持ち、足軽たちと並んで掘る。


ザク、ザク……


「旦那、そんなに深く掘るんですか?」


「馬の脚が折れるくらいまで。落ちたら終わりだ」


「ひぇ……こりゃ落ちたくねぇな」


「落ちるのは武田だ。安心しろ」


足軽が笑う。


「それ聞いて、余計怖くなりましたぜ」


そこへ、馬蹄の音。

織田・徳川の首脳陣が現れる。


織田信長(尾張弁)

「ほう……ずいぶん掘ったがや」


柴田勝家(尾張弁)

「浅いと飛び越えられる。だが深すぎりゃ時間がかかる。

加減が難しいがや」


丹羽長秀(尾張弁)

「足軽もよう動いとる。無理言うとらんか?」


僕が答える前に、足軽の一人が慌てて頭を下げる。


「へ、へい!

誰一人、文句言うとりません!」


信長が口の端を上げる。

「ええ顔しとるわ。

武田を止めるのは、殿様やのうて、こういう手じゃ」


地面に描かれた簡易図を前に、武将たちが集まる。


佐久間信盛

「問題はここですな。相手に“突っ込ませる”こと」


原田直政

「警戒されたら終いだで。柵は見せすぎてもいかん」


柴田勝家

「だが武田は突撃が本分。逃げる敵を見りゃ、必ず追う」


徳川家康が、腕を組んで頷く。


徳川家康「追わせりゃええ。勝ったと思わせりゃ、人も馬も止まらんでよ」



僕が一歩前に出る。


「なら、僕がやります。」


一瞬、空気が止まる。


丹羽長秀

「……自分から釣り餌になる言うことですな」


佐久間信盛

「逃げ方を誤ったら、全滅ですぞ」


柴田勝家

「中途半端は許されん。負けるなら、徹底的に負けに見せにゃならんがや」


信長が静かに言う。


織田信長

「それが【釣り野伏せ】じゃな」


原田直政

「島津が得意とした戦じゃ。一度食いついたら、最後まで離さん」


織田信長

「山本勘助も好みそうな策じゃて。人の欲を、よう突いとる」


柴田勝家

「敵を褒めとる場合か」


織田信長

「策は策じゃ。良いもんは、敵のもんでも良い」



武将たちが去ったあとも、穴掘りの作業は続く。


「旦那、さっきの話……

ほんとに後ろから突っ込むんですかい?」


「そのつもりだ」


足軽は鍬を止めて言った。


「……生きて帰ってきてくださいよ」


「約束はできないが、努力はする」


足軽は笑った。


「それで十分ですぜ」


穴はさらに掘られ、

馬防柵は次々と組まれていく。


金網があれば楽なのに、などと一瞬考えて、

すぐに頭を振った。


今は戦国時代だ。


武田軍を打ち破るための準備は、

足軽たちの汗と土にまみれながら、

着実に進んでいた。

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