第9話 降伏しました。

石山、本願寺包囲戦


毛利の村上水軍が、湾内で次々と姿を消していくのが見えた。

帆が裂け、櫂が折れ、船影が沈むたびに、

石山本願寺の中で何かが一つずつ折れていった。


それは兵でも、武器でもない。

「まだ戦える」という信念だった。


火が迫る


信長軍の前線では、火炎点火部隊が動き始めていた。


重油を含んだ液体が、城下と砦の隙間へ、寺院の木壁へと流れ込む。

火はすぐには上がらない。

その“間”が、逆に恐怖を増幅させた。


逃げようとする者、念仏を唱え続ける者、

仲間を押しのけて出口に殺到する者。


やがて、投げ込まれた火が


ぼうっ


音もなく、面で広がった。


煙は黒く、重く、空を覆い、

叫び声はやがて区別がつかなくなっていった。


誰が誰を呼んでいるのか、

誰が生きていて、誰がもう倒れているのか、

もう分からない。



三方向からの包囲網は、静かに、しかし確実に縮んでいた。


退路はない。

水路は断たれ、山道は塞がれ、海はもはや敵のものではない。


そこへ伝令が駆け込む。


「……顕如様」


声が震えていた。


「村上水軍……敗れました」


一瞬、堂内が静まり返った。


本願寺顕如は、すぐには答えなかった。

ただ、長い戦の重さを、静かに吐き出すように言った。


「……もはや、これまでか」


それは敗北の言葉ではない。

終わりを認める言葉だった。



顕如は朝廷へ使者を立てた。


信長との和睦へ

それは屈服ではあるが、滅びではない。


これ以上、門徒が死に続けることを止めるための選択だった。


やがて信長の条件が伝えられ、

顕如はそれを受け入れた。


石山本願寺は明け渡され、

顕如は紀伊国・鷲森別院へと身を退いた。


戦後に残ったもの


あなたは、目標としていた二年で

本願寺という巨大な宗教武装勢力を解体した。


だが戦場に残ったのは、


焼け落ちた堂


崩れた土塁


主を失った門徒


二度と戻らぬ農村


勝利は、確かにあった。

しかし同時に、取り返しのつかない空白も生まれていた。



◇◇◇


室町幕府の終焉

将軍・足利義輝が暗殺され、

三年間、京には将軍がいなかった。


その空白を埋めるため、

信長は足利義昭を奉じて上洛する。


この頃から、信長は名を変え、地を変え、旗印を変えた。


美濃は「岐阜」となり、城は「岐阜城」と呼ばれる。


そして使われ始めた言葉


天下布武


それは「征服」ではなく、

戦を終わらせるために、戦える力を独占するという宣言だった。


鉄砲国家への道


僕は大阪の堺へ向かった。


鉄砲職人たちと交渉し、

技術を囲い込み、量産体制を整える。


鉄砲はもはや「武芸」ではない。

制度と物流で運用する兵器になりつつあった。


さらに、雑賀党の鉄砲衆も引き入れた。


組み撃ち。

絶え間ない射撃。

個の勇より、集団の圧力。


戦は、完全に変質した。


そして、次の地獄へ


僕は、この時代の地図を広げる。


西には

中国地方を押さえる毛利輝元。


東には

風林火山、武田信玄。


どちらも強大。

どちらも、放置できない。


どちらかを叩けば、

もう一方が動く。


どちらも叩かなければ、

いずれ挟まれる。


あなたは、まだ血の乾かぬ戦場の匂いを思い出しながら、

静かに考え始めた。


次に滅ぶのは、どこか。


東か、西か。

天下布武の本当の試練は、ここからだった。



【第三部 完】

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