第4話 報告しました。
僕は信長様に報告した。
「殿、忍者との請負契約が無事終わりました。期間は1年です。」
信長様は目を細め、眉をピクリと動かした。
「ふん、まあ、よーやったの。これで石山本願寺の鈴木重秀も…」
僕は正直少しガッカリしていた。
忍者版ゴル○30みたいに次の日にはパッと暗殺が終わると思っていたからだ。
(1年もかかるのか。すぐに終わるもんじゃないのね…)と、心の中で呟く。
清洲同盟から1年後、徳川家康の嫡子、竹千代(信安)へ信長様の娘、五徳が嫁いだ。
はい、トツギーノ。
僕は北近江の豪族、浅井家との同盟準備に取り掛かる。
信長様の妹、お市の方様が浅井長政に嫁ぐ。
これで浅井家と関係の深い越前の浅倉家には、当分攻め込めない。
本願寺一向宗門徒を一掃するには、兵力を分散できないからだ。
お市の方様は信長様に似て凛々しい。
近づくな俗物が!とオーラを放っている。
◇◇◇
伊賀忍者との契約、11ヶ月後――
鳥越城内
鈴木重秀は爺やと女中が運んできた玄米と沢庵、梅干しを口にしていた。
「信長の軍はまだ諦めぬのか。この戦、何年続くかのう…」
「毛利水軍の援助があれば、我ら負けるはずがござらぬ。」
爺やが応える。
「ふむ、そうであろうな…」
重秀の目が、天井の隅をチラリと見やる。
(もうすぐ契約の1年が経つな…)
冷や汗が額を伝う。
「失礼、致します。」
女中は膳を片付け、頭を下げて部屋を後にする。
重秀は後ろ姿を見送りながら、少し微笑む。
「あの女中、なかなかよく働くのう…」
爺やが説明する。
「信長に滅ぼされた六角家のゆかりでございまして、信長に一矢報いたいとのことで、一向宗門徒に入信しておるようです。」
重秀は、心の奥で、何か温かいものを感じた。
「うむ…気立てが良い…いずれ…うっ…」
鈴木重秀は箸を手にしたまま、妙に身体が重くなったのを感じた。
「体が、う、ごー、か、な……」
手が思うように動かず、指先はしびれ、箸は床へ滑り落ちた。口を開けても、声はか細くしか出ない。
目の前の景色がゆらめき、天井の板が不自然に開く。覆面の者たちが、静かに数人降りてくるのが、かすかに見えた。
隣に控えていた爺やも、最初は普通に見えたが、やがて顔色が青白くなり、手足がぎこちなく震えはじめた。
「う……く……」
声は出るが、力が入らず、口はもつれ、立とうとしても膝が折れる。
爺やの身体は次第に硬直し、まるで木偶のように棒立ちのまま。
忍びたちはその背後から、そっと縄をかけ、首に巻きつける。爺やは身動きできず、舌も回らぬまま、静かに吊るされた。
鈴木重秀は痺れと毒に侵され、意識も断片的になりながら、覆面の忍者たちが迫るのをぼんやりと見た。
手足の自由を奪われ、刀を握る力も抜け、呼吸さえも浅く、苦悶の呻きだけが薄暗い城内にこだました。
その瞬間、天井の板が軋む音。
薄れゆく意識の中で、覆面をした影が数人、静かに降りてくる。
「な、何者……」
重秀の言葉は途切れた。
隣にいた爺やは、既にスルスルと首を吊られ、無惨にぶら下がっている。
冷たい目だけがこちらを見つめていた。
「お命、頂戴致す。」
短刀の冷たい刃が、一瞬の間に肩口を切り裂く。
ザクッ、と鎧を裂く音が響き、赤黒い血が膳や床に飛び散る。
次の瞬間、背後から短刀が喉元に押し当てられ、冷徹な力で突き刺される。
血管が裂け、呻き声が泡となって消える。
体を震わせるも、力は次第に抜け、視界は暗く沈む。
天井から降りたもう一人の忍者が胸を貫き、赤い滝が鎧を濡らす。
短刀の冷たい重みが、重秀の心臓の鼓動を止めた。
城内に、深い沈黙が落ちる。
血に染まった膳、吊るされた爺や、そして動かぬ鈴木重秀の身体のみ。
忍びたちは、息を殺し、刀の血を拭う。
一言も発せず、影のごとく天井を伝い、城外へ消え去った。
その背後に、ただ重秀の呻き声も、呻き声も絶えた城内の静寂だけが残った。
風が吹き抜け、血の匂いと木の匂いが混ざり合う。
これこそ、戦国の世における「暗殺」の現実だ。
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