第6話 作戦を練りました。

1560年。

今川の軍勢が城を出陣したとの報が、くノ一の忍者から届いた。


その数、およそ二万五千。

尾張へ侵攻を開始したという。


……やはり来たか。

ずっと監視させていたから、情報は異様なほど早かった。

情報を制する者は日本を制する。なんちゃって。


すぐに信長様へ報告した。


「……で、どうするんだがね」


信長様は短くそう言った。

その目は冗談ではない。


だから、正直に答えた。


「桶狭間の戦いで、今川義元の首を討ち取れます」


一瞬の沈黙。


次の瞬間


「ほう!」

信長様の声が弾んだ。


「奇襲だな?」

「奇襲を仕掛けりゃええっちゅうことだがね!」


周囲がざわつく。


柴田勝家が眉をひそめる。


「おいおい……二万五千だがね?」

「三千で行く気かや? 正気かて」


佐久間信盛も腕を組み、低く唸った。


「数が違いすぎるがね……」

「下手すりゃ、一刻で潰されるわ」


前田犬千代(利家)は逆に目を輝かせた。


「面白ぇがや!」

「少ねぇ方が燃えるに決まっとるだろ!」


藤吉郎(秀吉)は、口元を歪めて笑った。


「へぇ……首だけ狙う、っちゅうわけだがね」

「そりゃあ、血の匂いがせん戦だで、わしは好きだわ」


弟の木下秀長は、やや慎重に。


「兄者……ほんとに、雨が降るんだがね?」

「降らんかったら、えらいことになるが」


僕は続けた。


「桶狭間へ軍勢を向かわせます」

「伏兵の忍者くノ一部隊、ハングライダー部隊、装甲車部隊で戦力を分散させます」


ざわっ。


柴田勝家が目を剥いた。


「は? 装甲……なに?」

「空飛ぶ? なんだそれ!」


前田犬千代が大声で笑う。


「空から来るだと!?」

「今川、腰抜かすがや!」


藤吉郎は、ニヤニヤしながら頷いた。


「ええわぁ……」

「敵が“わけ分からん”思う戦は、もう勝っとるも同然だがね」


信長様は顎に手を当てた。


「目指すは――」

「今川義元の首、のみか?」


「はい」


「大雨が降り出すでしょう。それが合図です」

「全軍、突撃してください」


信長様は、にやりと笑った。


「……面白いがね」

「全部、桶狭間に賭けるっちゅうわけだ」


準備が始まった。


砦を、街道沿いに四つ。

ハリボテでいい。

相手に気分良く侵攻してもらうための舞台装置だ。


その説明をすると――


佐久間信盛が渋い顔をした。


「……人柱、残すだと?」

「そりゃ、あんまりだがね」


柴田勝家が歯を食いしばる。


「覚悟決めとる兵だけ、置くがや……」

「無駄死にはさせんでくれよ」


前田犬千代は拳を握った。


「任せとけ!」

「逃げる役目なら、俺がやるがや!」


藤吉郎は、楽しそうに言った。


「ええ罠だわ」

「城みたいに見えて、逃げ道だらけ」

「人柱……上手いこと言うがねぇ」


秀長が苦笑する。


「兄者……あんた、笑っとる場合じゃないがね」


その頃、今川義元は

(尾張など、上洛への通り道でおじゃる)

と、余裕をかましていた。


二万伍千人の軍勢で押し寄せてくる。


だが実際は、軍勢の多くは寄せ集めの農民兵。

本体は六千ほど。


それを、我々三千で迎え撃つ。


勝てる。

勝てるはずだ。


……僕はふと、

今川義元の顔が、おじゃ○丸みたいだな、と思いながら、

最後の確認を終えた。


天候次第なのが、不安だ。


大雨、降るよね?

もし雨が降らなかったら歴史は変わるのだろうか。


そして。


一階が屋根付き駐車場、

二階が広いテラスのハリボテ砦が、次々と完成した。


一階から装甲車で前方を掃射。

二階テラスからクロスボウを連射。

危なくなったら、即撤退。


柴田勝家が呟いた。


「……こりゃ、戦じゃねぇな」

「狩りだがね」


藤吉郎が、尾張弁全開で締めた。


「いやぁ?」

「首取り祭りだわ」


空を見上げる。


雲が、重く垂れ込めてきた。


歴史に残るであろう桶狭間の戦いは

間もなく、開戦されようとしていた。


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