第6話 内政を実行しました。

昨日、信長様に内政の助言を頼まれた僕だが、

正直なところ、司法局だの財務局だの行政局だの、

そんな近代国家みたいなものは、

この時代では土台からして無理がある。


まずは民が「生きやすい」と感じる仕組み。

それが先だ。


翌朝、信長様の前に立ち、僕は一気に進言した。


警察(町奉行)

消防(火消し隊)

病院(診療所)

諜報部(忍者部隊)


地図の上に指を走らせながら説明すると、

信長様は腕を組み、ほんの一瞬考え、


「ええがや。全部やれ。すぐだ」


それだけだった。


……あっさりしすぎである。


さすが独裁政権。

決裁印も会議も根回しもない。

気に入らなければ首、物理的に首が飛ぶ。


だが、その分、動きは異様に早かった。


「おい!兵舎で寝とるだけの奴ら!

今日から仕事だでな!」


行き場のなかった足軽たちが、

一斉に動き出す。


鍬を持ち、槌を持ち、木材を担ぎ、

町が音を立てて変わり始めた。


番匠たちが木組みを組み上げ、

土壁が塗られ、

数日後には町の中央に、

威圧感のある建物が姿を現した。


町奉行所。【裁判所・警察署】


役人の詰め所であり、

裁きの場であり、

町の「目」そのものだ。


ここに来れば、

盗人も、揉め事も、暴力も、

すべて白日の下にさらされる。


犯罪の少ない町は、

人を呼ぶ。

人が集まれば、金が回る。


次に建ったのは診療所だ。【病院】


傷ついた兵、病に伏した町人、

子どもを抱えた母親が、

恐る恐る戸を叩く。


薬草を煎じ、

縫合し、

痛みに耐える者の手を握る。


「生きて帰れる場所がある」


それだけで、人は戦える。


火消し隊も組織した。【消防署】


江戸ほどではないが、

火事は町を一夜で滅ぼす。


「燃えてから壊す」では遅い。


新築時の建築確認。

道路に面さない土地への建築禁止。

屋敷には防火用の溜め池。


地下には、

防火水槽と下水を兼ねた管を埋める。


番匠たちは首を傾げながらも、

「面白ぇ考えだ」と笑った。


町は、無秩序な集まりから、

“設計された空間”へと変わっていった。


そして一週間後。


鍛冶屋から呼び出しがかかった。


工房に入った瞬間、

鉄と木と油の匂いが鼻を突く。


そこに置かれていたのは――


横向きに据えられた弓。

木製の銃床。

引き金。

滑車とテコ。


クロスボウガン。


和弓とはまるで違う姿だが、

間違いなく、

僕が描いた絵の通りだった。


胸が、少し熱くなった。


だが――


「……矢、でかいな」


そう。

致命的なミス。


矢のサイズ指定をしていなかった。


鍛冶屋は申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえ、こちらの落ち度です。

もっと小さく、軽く、量産できる形でお願いします」


改良点を必死に伝える。

言葉にするのは難しい。

未来の常識は、この時代では説明が足りない。


それでも、鍛冶屋は目を輝かせていた。


「……面白ぇ。

こんな武器、初めてだ」


職人の魂に、火がついた瞬間だった。


改良型を携え、信長様のもとへ。


「ほう……これが、

くろすぼうがんか」


信長様は手に取り、重さを確かめる。


「小さいのう。

弓に比べりゃ、半分以下だがや」


「一撃の威力は低めです。


ですが」


実演する。


右肩に固定し、

狙いを定め、

引き金を引く。


――シュッ。


乾いた音とともに、

矢が一直線に飛び、

的の中心に突き刺さった。


場が、静まり返る。


「……ほう」


信長様の目が、獣のそれになる。


「当たりはええな。

訓練せんでも、百姓兵でも使えるがや」


「ほうか……

南蛮人の武器っちゅうわけだな。

世の中ゃ広ぇでいかんわ。

日本なんぞ、ちんけな島国だぎゃあ」



花火を応用した手榴弾、

鉄の盾を用いた防御陣形。


すべての実演が終わったとき、

信長様は、短く笑った。


「さっさとやれ。

足軽どもに使わせろや」


こうして、

僕の新しい戦は、静かに動き始めた。


_________________


江戸の火消し隊は「義理と人情とやせ我慢」を信条とし、火事を止めるため、延焼しそうな家を壊すことも厭わなかった。


江戸では火事が非常に多く(放火が多かった)、財産を蓄えても一夜で失うことが珍しくなかった。そのため「宵越しの銭は持たない」という気風が生まれた。

火事が広がりやすかったのは、長屋が密集し、人口が集中していたためである。

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