第5話 内政の話をしました。
僕は信長様の御屋敷での夕食会に招かれた。
広間の中央、上座には信長様。
その隣には若い小姓、そして
斎藤道三の娘、正室・帰蝶様が静かに座している。
帰蝶様は派手さはない。
だが、背筋が伸び、視線は鋭く、
この場で一番「全体」を見ているのが、ひと目で分かった。
僕は膳を見て、やはりと思った。
山盛りの米。白米ではなく赤米(大唐米)。
味噌汁には野菜とうどん。焼き魚が一尾。
質素だが、量はある。
豪勢、というより「力のある飯」だ。
信長様がどかっと座り、笑う。
「どうじゃ、食えるか?
この前は武人の紹介で、猫かぶっとったが、
今日は城じゃ。無礼講だでな!
腹の中、全部出せ!」
上半身ははだけ、完全に“自宅の家”の信長だ。
「はい、美味しいです。特に米が……」
そう言いかけて、言葉に詰まる。
正直、炊きたてなのにパサついている。
粘り気がない。
信長様の目が、すっと細くなる。
「……ほう?」
帰蝶様が、すっと杯を置いた。
「殿」
柔らかい声だが、よく通る。
「この方は“味”を申しております。
無礼を申すつもりではございませぬ」
信長様が舌打ちする。
「分かっとるわ!
だがな、顔に全部出とるんじゃ!」
僕を見る。
「嘘つくでねぇ!
今日は無礼講言うたがや!
遠慮せず言わんか!」
「……はい。嘘です。
不味くはありませんが、正直に言うと――普通です」
(魚に醤油が欲しい……いや無理だ、戦国だ)
一瞬、空気が張りつめる。
が。
「はっ!」
信長様が突然笑った。
「普通か!
普通って何だ、普通って!」
そして大声で笑う。
「ええわ!
正直な奴ぁ嫌いじゃねぇ!」
帰蝶様が、微笑を浮かべる。
「殿、未来の者は
“贅沢に慣れている”のでしょう。
それでも、この量を出す国を
誇りに思っているように見えます」
信長様が鼻を鳴らす。
「ふん……」
だが機嫌は完全に直っている。
「でよ、未来じゃどうなんだ?
米ぁ腹いっぱい食えるんか?」
「はい。いつでも。
最近は米離れで、パンやパスタも食べます」
「米食わん日があるだと?」
信長様が眉をひそめる。
「……それでも日本人か、おみゃあ。
パンは南蛮の食い物だら?
パスタも同じか?」
帰蝶様が、間を取る。
「殿。
異国の食が広まるということは、
交易が豊かになった証。
悪い話ではありませぬ」
信長様は一瞬黙り、ふっと笑う。
「……さすがじゃのう。
お前は話を“戦”にせん」
僕は内心、(助かった……)と息をついた。
酒が回り、信長様が急に真顔になる。
「ところでだわ。
この国じゃな、
戦やる奴と、田ぁ耕す奴ぁ分けるつもりだでよ」
「兵農分離ですね」
「そのように申すのか」
信長様は頷き、早口になる。
「戦始まってから人集めとったんじゃ、
全部遅ぇんだわ!
遅ぇのは嫌いだでな」
帰蝶様が静かに続ける。
「人は役目が定まれば、
迷いが減ります。
殿のお考えは、民にも益がありましょう」
信長様が満足そうに笑う。
「ほれ見ろ。
分かっとる者は分かっとる」
「税ぁ取るのは簡単だがや、
苦しい国に商人ぁ寄りつかんだろが」
「楽市・楽座ですね」
「未来ではそう呼ぶか」
一瞬、不機嫌そうに笑う。
「……これからやろう思っとることを
先に言われるとよ、
なんか腹立つがや!」
「あははは!」
帰蝶様が、くすりと笑う。
「殿。
腹が立つということは、
それだけ先を見ておられる証」
信長様は満足そうに頷いた。
「よし。
内政の助言もせい。」
「内政ですか……難しそうですね」
「何を言っとる」
即答。
「決めるのはわしだがや!
おみゃあは言え!
責任は全部、わしが取る!」
帰蝶様が、最後に一言。
「この方は“未来”を知っています。
殿が使わぬ理由は、ございませぬ」
こうして僕は、
戦国時代の新しい内政を
本気で考える羽目になった。
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信長が行った主な政治。
【楽市楽座(らくいちらくざ)】
今まで領土内で貴族や寺社が市税をとっていた。 それぞれの組合(座)を作りそこから税金をとっていた。 これを開放する事により、武士による商人の支配ができるようになった。
【関所の廃止】
今まで関所があったため、軍隊など進めるのに妨げとなっていた。 これを廃止する事により自由に軍隊が移動できるようになった。 また品物が素早く届き商業が発達した。
【キリスト教の布教の自由】
寺社に対抗すべくキリスト教を自由に布教させた。 南蛮人の往来が増え、南蛮貿易により最新の武器が手に入るようになった。 キリシタン大名が増え、寺社の勢力が弱まった
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