第4話 打ち合わせをしました。
鍛冶場は、遠くからでも分かった。
鉄を打つ音が、腹に響く。
カン、カン、カン――
火の粉が舞い、煤(すす)が空気に混じる。
鼻の奥が焼けるように痛い。
中では、上半身裸の男が、大槌を振り下ろしていた。
腕は丸太みたいに太く、背中には古傷が何本も走っている。
刀鍛冶
「……あんたが、
殿が言うとった“占術者”だがや?」
「はい。田中です」
刀鍛冶
「ほう……
見たとこ、
血の匂いはしとらんな」
その一言が、胸に刺さった。
「
刀鍛冶は、焼けた鉄を水に沈めた。
ジュウウウッ
白い蒸気が立ち上る。
刀鍛冶
「まず聞くがや。
あんたぁ、
人が斬られるとこ、見たことあるか?」
「……ありません」
刀鍛冶
「なら、覚えとけ」
男は、壁に立てかけた刀を一本、投げて寄越した。
ずしりと重い。
刀鍛冶
「刀ぁ、
「槍で突く、鈍器で叩く、弓で射る」
「刀ぁな、
最後の最後、
倒れた相手の首を落とすためだがや」
僕の手が、震えた。
「……じゃあ、
刀の数はそこまで――」
刀鍛冶
「要る」
即答だった。
刀鍛冶
「
首を揃えるために要るがや」
「首が無ぇと、誰を殺したか分からん」
「誰が手柄を立てたか、分からん」
淡々とした口調。
それが、余計に怖い。
「ええーっと、ここに来たのは、クロスボウガンという武器を作りたいんです。」
刀鍛冶
「ああ、殿から話ぁ来とる」
「弓を引き金で撃つだぁ?面白ぇがや」
「だがな」
男は、火箸を置いた。
刀鍛冶
「兵ぁ、死ぬ」
「どんな武器でも、死ぬ」
「爆ぜ物だろうが、盾だろうが」
「死ぬ時ぁ、腹裂ける、
骨見える、
泣きながら糞垂らす」
「それが
その言葉が、
僕の頭に重くのしかかった。
◇◇◇
町の裏道 で
町を歩いていると、
血の臭いがした。
洗っても落ちきらない、
鉄と肉の匂い。
刀を研ぐ商人の前には、
血のこびりついた刃が並んでいる。
商人
「これぁ安いぞ。
昨日の
「血、まだ新しいでな」
その横では、
縄で縛られた子供が座っていた。
泣いていない。
もう泣き疲れた顔だった。
戦場は、英雄譚なんかじゃない。
殺して、奪って、
生き残った者が正義になる場所だ。
刀で斬られる前に、
槍で腹を突かれ、
倒れたところを踏みつけられ、
最後に首を落とされる。
死体は放置され、
烏が目をつつく。
それが日常だ。
夕暮れ
信長様の屋敷へ
陽が落ち、
空が赤く染まる。
屋敷に戻ると、
門番の足軽が、
ガタガタ震えていた。
僕の尻を蹴った、あの男だ。
足軽
「……田中さま……」
声が裏返っている。
命令一つで、
明日死ぬかもしれない。
それが、この時代の兵だ。
僕は信長様の夕食会へ招かれた。
_______________
戦では、普段は百姓や職人として暮らす人々が、仕事を中断して兵として動員される。そのため、田植えや稲刈りの時期には戦は避けられた。人手がなければ米が作れないからだ。
農民の兵に給料はない。勝てば、敵地での金品や人の略奪が黙認され、それが報酬代わりになる。奪った物や人は、商人を通して金に換えられた。
警察も法もなく、戦場は無法地帯だった。人は生き延びるため、神仏や信仰にすがるしかなかった。汚れた世界だからこそ、人は「誠」を求めたのかもしれない。
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