第2話 考えました。
僕がこの時代にやって来たことには、きっと意味がある。
僕は、与えられた部屋で仰向けになり、天井を見上げていた。
……とは言っても、真っ暗で、何も見えない。
(そりゃそうか)
蝋燭なんて、庶民が気軽に使えるもんじゃないはずだ。
油の匂いが、かすかに鼻につく。
外では、虫の声と、どこかの家臣の足音。
(……静かすぎる)
現代の夜みたいに、車の音も、エアコンの唸りもない。
生き物の音しかしない夜だ。
(信長様……って呼び方でいいよな。雇われたんだし)
二十歳として、あと三十年。
史実だと五十歳まで。
(……できれば十五年くらいで天下取ってくれないかな)
元の世界に戻る方法も、考えなきゃいけない。
でも——
(戻りたいか?)
工場で、事務作業。
同じ机、同じ書類。
飯食って、寝て、また会社。
(……別に、輝いてなかったな)
だったら。
(この戦国時代で、出世した方が早くないか?)
これは、神様がくれた
人生の大どんでん返しなんじゃないか。
問題は、どうやって出世するか。
戦国時代の出世法は、単純だ。
敵の大将の首を取るか、
敵を降伏させるか。
(つまり……戦争)
まず必要なのは、武器と兵。
訓練された兵士の数が、多い方が勝つ。
シミュレーションゲームの定番だ。
(富国強兵……)
頭に浮かんだ言葉に、自分で苦笑する。
大日本帝国みたいだな。
まず武器。
この時代の主力は、火縄銃。
(大量に仕入れさせる必要があるな)
それと、足軽の訓練。
集団戦の徹底。
さらに
(新兵器……)
戦車は無理。
でも、防御力の高い移動盾なら?
ダイナマイトはない。
でも、火薬を応用した破壊兵器なら……?
飛行機は無理。
でも、高所から攻撃できる装置なら……。
(自軍の被害を減らして、敵の被害を増やす)
頭の中で、
陸軍・海軍・空軍の構想が勝手に走り出す。
(……あ、俺、完全に軍師脳だ)
戦国時代の主力は足軽。
鉄砲もまだ数が少ない。
(別の武器体系を作れれば……)
今の情勢も把握しないと。
今川義元。
斎藤道三。
……あと誰だ?
(やばい、記憶があいまいだ)
もっと歴史、勉強しとけばよかった。
準備ゼロでタイムスリップとか、無理ゲーすぎる。
(ググりたい……)
忍者は、いるよな。
情報戦、必須。
金もいる。
経済を回さないと、税も取れない。
この時代、主食は米。
スナック菓子は——ない。
(新しい食い物、作れたら……)
ポテトチップス。
マヨネーズ。
ソーセージ。
(……俺、大金持ちじゃん)
いや、待て。
(戦国時代の一般人に、食を楽しむ余裕あるか?)
そんなことを考えているうちに、
意識は、ゆっくり闇に沈んでいった。
◇◇◇
朝。
太鼓の音で、目が覚めた。
(……うるさい)
いや、目覚ましじゃない。
軍の合図だ。
障子の隙間から、朝日が差し込む。
土の匂い。
炊事の煙。
(……本当に、戦国だ)
二日目。
占術者・田中は、
信長軍の主要武将たちと引き合わされた。
広間は広い。
板張りの床。
柱は太く、天井は高い。
壁際には、槍、弓、刀。
全部、本物。
(ここ、間違えたら即、斬られる空間だ)
順に、紹介される。
柴田勝家
第一印象は、圧がすごい。
鎧の上からでも分かる筋肉。
太い首。
鋭い眼光。
(脳筋……いや、戦のプロだ)
武力、たぶん90。
100が信長なら、この人は最前線担当。
(敵に回したら、絶対怖い)
木下藤吉郎(羽柴秀吉)
目が、異様に動く。
人の表情、空気、立場。
全部、見てる。
(この人……危険だ)
武力は低い。
でも知力とコミュ力が異常。
(参謀長タイプだな)
ニコニコ顔は笑っているが心は真っ黒だ。
木下秀長
藤吉郎(秀吉)の異父弟。
穏やか。
柔らかい笑顔。
(調整役……胃が痛そう)
この人がいるから、秀吉は暴走できるんだろう。
丹羽長秀
中間管理職感、満載。
(板挟みで苦労してそう……)
でも、信長からの信頼は厚い。
前田犬千代(前田利家)
でかい。
槍が、長い。
顎が割れてて、男前。
(これは……モテる)
武力80。
現場最強クラス。
佐久間信盛
いぶし銀。
無口。
(経験値、高そう)
こうして見ると。
(完全に、戦国時代のプロジェクトチームだ)
しかも
失敗=死。
デッド・オア・アライブ。
僕は、占術者として紹介された。
そして
昨日の夜、考えたことを、口にする決意をした。
空気が、重い。
全員の視線が、僕に集まる。
(……言うしかない)
「信長様……
提案、いえ、進言したいことがあります」
広間が、しん……と静まり返った。
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