第2話 家の鍵がない


その日




渉(わたる)は外出しようとして、玄関のカップに手を伸ばした。




「あれ?」






……ない。




いつも白いカップに入れている鍵が、ない。




──昨日、入れたはずだよな?




玄関周りを手当たり次第に探すが、どこにも見当たらない。




──なんか、変だ




「昨日帰ってきて、カップに……いや、待て。俺、鍵かけたっけ?」




バクン、と心臓が跳ねた




背中がざわつく。


慌てて玄関ドアに手をかけると――




軽く押しただけで開いた。




「……まじか」




開いていた。


外を伺う──


いつもの晴れた空




異常はないようだ


ドアを閉める




そして。








「これ……誰の靴だ?」




見たことのないスニーカー。


きちんと揃えて置かれている。




これが“違和感”の正体だった。








ドクン








心臓が跳ねた。




──落ち着け……状況を整理だ




昨日、鍵をカップに入れた。


でも今はない。


玄関は開いていた。


知らない靴がある。




ゴクリ




「……いや、ただの新しい靴だ。兄貴か父さんのだろ、たぶん」


無理にでも納得させるように独り言を落とす。




「……よし、とりあえず鍵だ。どっかに置いたんだろ」




リビングを見る。




まずはここから


探す。


……ない。




もう一度探す。


……ここにもない。




「うーん……」




渉は腕を組み、首を少し傾けた。




……よし、二階だ。




トントントン。




階段を上りきると、静まり返った通路がまっすぐ伸びていた。


兄貴の部屋、


父さんの部屋、


──そして自室。




今日は平日で学校が休校。


家には俺しかいない。




体育館に一人でいるような、静かな静寂…







スタスタスタ。




兄貴の部屋




カチャ。




ギィ。






「……」








誰もいない




ふぅ。




「よし! 探すぞー!」


俺は沈黙を打ち破るように一人ごちた。


その後、二階を全部ひっくり返したが──。




「ないなー……」









鍵はどこにもなかった。








渉はリビングに戻り、ソファに背中から倒れ込んだ。








「あー……見つかんねー」




沈み込むように体を預け、


黒いテーブルに映る自分の顔を見る。




「……ちょっと休憩」




足でリモコンを引き寄せ、テレビをつけた。





ピッ。






『─のニュースです。現在〇〇市で無人の家に侵入し、金品を盗む事件が相次いでいますが、速報によると昨日未明、〇〇市〇〇町内の個人宅で人が血を流して倒れているのを近所の方が発見しました。現場には荒らされた後と加害者と争った後があり、現在行方はわかっていません。おそらく現在続いている金品強盗犯の犯行持に出くわしてしまったのではと思われます。この犯人の特徴としてなぜか入った家の鍵をもっていくという特徴があるらしく──』





ピッ。




「…」


「……え?」




ガタン。




「っ!?」




バッと跳ね起きる。


心臓が痛いほど脈打つ。




──今の音……なんだ?




目を凝らす。





カタ







──母さんの部屋……あそこからだ




渉は音を殺して歩き出す。


床板が鳴らないよう、




一歩ずつ。




ギィ。




!……音が消えた?









ガチャ。




「……」




そっと顔だけ部屋に入れて覗く。






──誰もいない……気のせい?






渉はほっとして、


そっと一歩を踏み込んだ。




ピタ。




凍りついた。




……いる




窓の外。


カーテン越しの光が、人型にくり抜かれたように歪んでいる。




つまり─





ベランダの外に






──誰か……いる




ドク、ドクドクドクッ




「ッ──……ッ」




ゆっくり。


全身の力を総動員して、気づかないふりをしながら扉を閉める。




カチ……。




──最後の隙間から見えた




薄い影が、


こちらを覗き込んでいた。

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ホラー《創作》 揺籠(ゆりかご)ゆらぎ @yuragi-111

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