第39話

数時間後、一馬はゆっくりと瞼を持ち上げました。


​中級ポーションの劇的な治癒効果と、自己修復を終えた『白金生体聖護外套』のおかげで、肉体の激痛は引いています。しかし、急激な組織再生に伴う重だるさと、空腹感が全身を支配していました。


​「……生きてるな、俺。……ここは……」



​一馬は周囲を見渡しました。依然としてそこは、静寂に包まれた「無重力エリア」です。


壁に深く突き刺さった『極光』に腕を絡めたまま、彼は現状把握に努めました。


​バイザーを再起動すると、入ってきた方向とは反対側の壁に、ひっそりと口を開ける**「通路」**があることに気づきます。


​「あっちが先か……。だが、無重力じゃ泳ぐわけにもいかないな」


​一馬は、突き刺さっていた『極光』を引き抜きました。足場がないため、そのままでは空中で無力に漂うだけです。彼はレベル4に上がったことで強化された、脳内の「空間演算」をフル活用しました。


​「アンカーを撃ち込んで……引き寄せる。これの繰り返しだ」


​一馬は『極光』の槍先を、通路側の壁に向けて射出(あるいは重力吸着を起動)。ガィン! と壁を捉えると、ワイヤーを巻き取るような要領で、自らの体を浮遊させながら通路へと手繰り寄せました。

慣性がつくたびにバイザーで微調整し、不格好ながらも確実に対岸へと渡りきります。


​ようやく通路の入り口に辿り着き、その先を覗き込んだ一馬は、自分の目を疑いました。


​「……なんだ、これは」


​そこには、巨大な**「重力レンズ効果」**が発生していました。


光が歪み、本来は見えないはずの「はるか先の景色」が、通路の向こうに拡大・屈折して浮かび上がっていたのです。


​歪んだ光の向こうに見えたのは、これまでのバイオ・メタルな地獄や、大理石の宮殿とは全く異なる光景。


​「……一階層? いや、違うな。だが、見た目は『普通のダンジョン』だ……」


​そこには、土の壁、生い茂る苔、そしてどこか懐かしい「自然に近い」迷宮の姿がありました。しかし、重力レンズ越しに見えるその階層からは、一階層とは比較にならないほど濃密で、原始的な「魔力の奔流」が溢れ出しています。


​「八階層……。戻ってきたのか、それとも、ここが『本番』なのか……?」


​一馬は、歪んだ光の先に待つ「原初の風景」を見据え、一歩、無重力の闇を蹴り出しました。


​【鑑定:八階層・原初迷宮(エデン・オリジン)】


説明:重力の歪みによって、深層にありながら一階層と似た環境が構築された特殊階層。しかし、生息する魔物は一階層のそれとは桁違いの強度を誇る「古代種」である。


​一馬は、通路の奥へと吸い込まれるように進んでいきます。重力レンズの光を抜けた瞬間、ふわりと「足に重み」が戻ってきました。


​「……着地。……空気は美味いが、プレッシャーが半端じゃないな」


​一馬は、ボロボロになっていた装備を軽く叩き、改めて『極光』を握り直しました。


そこは、土と緑が支配する、美しくも恐ろしい「最深部の自然界」でした。


​【現在のステータスと装備】

​■ パラメータ

​名前: 佐藤 一馬(24)

​レベル: 4.05

​称号: 死線を越えし者

​状態: 空腹(強)、肉体はポーションで完治

​■ 装備品

​武器: 魔導可変兵器・極光(アトラス・バスター)

​防具: 白金生体聖護外套(プラチナム・バイオ・ガーディアン)

​(自己修復完了。深層の魔力を吸い、表面がより硬質化している)

​頭部: 予知型バイザー

​(重力レンズの解析により、少し先の未来視に近い予測が可能に)



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