第38話

七階層、変動する重力の荒波を越え、一馬が最後に飛び込んだのは、それまでの狂騒が嘘のように静まり返った広大な空間だった。


​そこは、これまでの部屋とは決定的に違っていた。上下左右の概念すら消失し、塵一つ動かない完全な**「無重力エリア」**。


​「……はぁ……はぁ……。ここが、最奥、か……?」


​一馬は、慣れない無重力に翻弄されながらも、手近な壁に槍モードの『極光』を全力で突き立てた。それをアンカー(錨)にして体を固定し、ようやく一息つこうとした瞬間――。


​「……っ!? が、は……ッ!!」


​凄まじい衝撃が全身を駆け抜けた。

今までアドレナリンによって麻痺していた痛覚のダムが、一気に決壊したのだ。


​六階層でバイオ・ギアに切り裂かれた傷、マザーのレーザーによる深刻な熱傷。そして何より、七階層の狂った重力変化に抗い、無理やりな方向転換を繰り返したことで、全身の筋繊維はズタズタに断裂していた。


さらに、マザーの脳を直結したバイザーからの過剰な情報流入により、脳神経までもが焼き切れんばかりの悲鳴を上げている。


​一馬は、有り体に言えば、今この瞬間「死にかけ」だった。


​「……クソ、が……。まだ、死ねる……かよ……」


​混濁する意識の中、動かせるのはもはや右手だけだった。震える手でポーチから自作の『黄金の中級ポーション』を一本、命を繋ぐ糸のように手繰り寄せる。


​キャップを外す猶予すらない。一馬は歯で瓶の口をこじ開けると、琥珀色の液体を最後の一滴まで喉に流し込んだ。


​聖水の清浄な魔力が、壊れた内臓や筋肉へと浸透していく劇的な感覚。だが、その強烈な回復の衝撃にすら、今の彼の精神は耐えきれなかった。


​「……あ……」



​空になった瓶が、無重力の空間をゆっくりと流れていく。

一馬は槍に腕を絡めたまま、深い闇の底へと意識を落とし、眠るように気絶した。


​【現在のステータスと装備】

​■ パラメータ

​名前: 佐藤 一馬(24)

​レベル: 4.05

​称号: 限界を超えし者

​状態: 強制スリープ(中級ポーションによる超急速修復中)

​(肉体は再生を開始しているが、精神的疲労により数時間は覚醒不能)

​■ 装備品

​武器: 魔導可変兵器・極光(アトラス・バスター)

​(壁に深く突き刺さり、気絶した一馬を繋ぎ止めている)

​防具: 白金生体聖護外套

​(主の心拍に合わせ、ゆっくりと自己修復機能を継続中)

​頭部: 予知型バイザー(強制シャットダウン)

​道具: 銀翼の無限ポーチ(シルバー・ヴォルト)



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