第29話
一馬は、白く輝く大理石の宮殿へと足を踏み入れました。そこは五階層――「神殿迷宮」。潜水艇アビス・ウォーカーを外に置いていかざるを得ない、狭く複雑な回廊が続く場所です。
「……潜水艇はここまでか。ここからは、俺自身の足でいくしかない」
一馬は、黄金の外套を締め直し、可変兵器『極光』を槍モードで手に取ります。四階層を「乗り物の力」でスマートに突破した高揚感は、すぐに打ち砕かれることになりました。
通路の両脇に並ぶ、不気味なほど精巧な石像――ガーゴイル。
一馬がその間を通り抜けようとした瞬間、石の軋む音が響き、四体のガーゴイルが同時に翼を広げました。
「なっ……速い!」
【鑑定:守護石像(ホワイト・ガーゴイル)】
説明:魔力を動力源とする石像。物理的な痛みを感じず、鋼鉄の爪と質量による打撃で侵入者を排除する。
ガツッ! と、鋭い爪が黄金の外套を切り裂き、一馬の肩に熱い痛みが走りました。
四階層での「潜水艇の火力」に慣れてしまった一馬の感覚は、生身の近接戦闘において決定的な遅れを生んでいました。
「……ぐ、ああぁッ!」
ガーゴイルの一撃が腹部を捉え、一馬は壁まで吹き飛ばされます。大理石の壁に背中を強打し、視界がチカチカと明滅する。機械相手なら回路を焼けば済みましたが、この石像たちは核となる魔石が強固な石の肉体に守られており、生半可な突きでは届きません。
「……慢心、してたな……俺は。強いのは潜水艇であって、俺自身じゃない……!」
一馬は口の端に溜まった血を拭い、立ち上がりました。
一階層、二階層で培った「泥臭い生存本能」を呼び覚まします。
槍を振るのではなく、敵の懐に潜り込み、可変機構を至近距離で解放。
「槍」から「砲身」へ変わる瞬間の『物理的な展開力』を利用してガーゴイルの腕をへし折り、生じた隙間にバスターの零距離射撃を叩き込みます。
ボロボロになり、外套はズタズタ、マスクも一部が割れて剥き出しの顔に返り血(魔力の残滓)が飛び散る中、一馬は最後の一体を粉砕しました。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ。……勝った、のか……」
勝利はしたものの、それは文字通りの「辛勝」でした。
一馬はその場に崩れ落ち、自らの「脆さ」を再確認します。技術(クラフト)に頼りすぎる危うさと、それを使いこなす自分自身の地力の未熟さ。
宮殿の奥から吹いてくる冷たい風が、傷口に沁みました。
【現在のステータスと装備】
■ パラメータ
名前: 佐藤 一馬(24)
レベル: 3.55(↑ 0.07UP)
称号: 満身創痍の開拓者
状態: 重傷(肋骨にヒビ、全身に裂傷。ポーションでの治療が必要)
■ 装備品
武器: 魔導可変兵器・極光(アトラス・バスター)
(酷使により可変機構にガタがきている)
防具: 金獅子の隠密外套(ゴールド・ステルス・コート)
(ガーゴイルの爪でズタズタになり、防御機能が大幅に低下)
頭部: 対魔毒・密閉型タクティカルマスク
(右半分が破損。一馬の素顔が半分露出している)
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