第13話

一馬は、討伐したケーブ・スパイダーから慎重に「毒腺」を摘出し、拠点へと持ち帰った。レベル2の【金属錬成】に加え、新しく解放された抽出機能を駆使する時が来たのだ。

​「これまでは物理的な貫通力ばかり考えていたけど、格上の相手には『状態異常』が切り札になるはずだ」

​**【作業台】**の光の中で、毒腺から致死毒と麻痺成分が分離されていく。一馬はそれをホームセンターPROで買った精密スプリングと、極細の鋼線を錬成した針の中に封じ込めた。

​『クラフト完了:魔導麻痺針(パラライズ・ニードル)』

説明:バール側面に装着可能な暗器。接触時に高圧で麻痺毒を注入する。

​さらに、万が一自分に毒が回った時のために、残りの成分を中和・精製し、緊急用の「解毒解呪ポーション」も三本作り上げた。これで、一階層で考えうる最悪の事態への備えは万全だ。

​一階層の最深部、ひときわ広い広間に足を踏み入れた一馬の前に、そいつは現れた。

体長1.5メートル。一見すると愛らしいウォンバットのようだが、その全身は金属のような光沢を放つ「黄金の剛毛」に覆われ、岩をも砕く巨大な爪を持っていた。

​【鑑定:アイアン・ウォンバット(一階層ボス)】

説明:極めて高い防御力と突進力を持つ。その剛毛は並の武器を弾き返す。

​「……いくぞ」

​一馬が足を踏み出した瞬間、巨体が信じられない速さで転がり、肉弾戦車となって突進してきた。

「くっ……!」

一馬は横に飛び退くが、通り過ぎる際の風圧だけで身体が浮きそうになる。まともに食らえば骨折どころでは済まない。

​一馬は、隙を見て「ニードル・バール」を叩きつけた。だが、ガキンという火花と共に、研ぎ澄まされた先端が黄金の剛毛に弾かれた。

​「やっぱり、物理防御が異常だ……。なら、こいつを食らえ!」

​一馬はバールのレバーを引き、側面に仕込んだ『パラライズ・ニードル』を起動した。

次の突進。一馬は今度は逃げず、懐に飛び込みながら、毛の隙間――唯一柔らかい「鼻先」を狙って針を打ち込んだ。

​シュボッ! という小さな音。

「グモォッ!?」

ウォンバットが激しく悶え、突進の軌道が大きく狂って岩壁に激突した。麻痺毒が急速にその巨体を蝕んでいく。

​「今だ……最大出力!」

​一馬は【金属錬成】で強化したバールに、全魔力を注ぎ込んだ。先端の熱蓄積機構が真っ赤に熱を帯びる。麻痺で動きが鈍ったウォンバットの喉元に向け、一馬は全体重を乗せた一撃を突き刺した。

​黄金の剛毛が熱で焼き切られ、ついに鉄の針が深々とその肉を貫いた。

​数秒の静かな抵抗の後、巨体は崩れ落ち、静寂が戻った。

​『一階層ボス:アイアン・ウォンバット討伐完了。レベルアップ……微増』

​「はぁ、はぁ……やった……。俺一人で、ボスを倒したんだ……」

​一馬は、震える手でボスの死体に触れた。そこからは、見たこともないほど巨大な「黄金の魔晶石」と、最強の防具素材となるであろう「黄金の毛皮」がドロップした。

社会から見捨てられた男が、自分の力だけで一階層の頂点に立った瞬間だった。

​【現在のステータスと装備】

​■ パラメータ

​名前: 佐藤 一馬(24)

​種族: 人間(男)

​レベル: 2.15(↑ 0.10UP)

​称号: 一階層の覇者

​状態: 極度の疲労(だが心は充実している)

​■ 装備品

​武器: 魔導刺突針・パラライズカスタム

​(熱蓄積による貫通に加え、高圧噴射式の麻痺毒針を搭載)

​防具: アラミド・スパイダー・インナー

​(スパイダーの糸を練り込み、柔軟性と強靭さを両立させた特製品)

​道具: 緊急用・解毒解呪ポーション

​(自作の錬金薬。あらゆる初級毒を即座に中和する)

​道具: 黄金の魔晶石(未加工)

​(ボスからドロップした超高純度のエネルギー源)

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