第12話

一馬は拠点の作業台に、ボロボロになった「バネ式刺突パイル」を置いた。レベルが2に上がった瞬間、頭の中に新しい知識の断片が流れ込んできたのを感じていたからだ。

​「……これまでは、あるものを組み合わせるだけだった。でも、今は……」

​『レベルアップに伴い【作業台】の機能拡張:【金属錬成】が解放されました』

​ナビゲートの無機質な声と共に、作業台のインターフェースに新しい項目が浮かび上がる。今までは市販のボルトやステーをそのまま使っていたが、これからは素材を一度魔力で溶かし、分子レベルで再構築して「理想の形状と強度」を生み出せる。

​一馬は、ホームセンターPROで買っておいた予備の鋼材やボルト、そして一階層で集めた高品質な魔石の欠片を投入した。

​「次はスパイダーを倒さなきゃならない。あの糸に捕まったら終わりだ。なら、必要なのは重い一撃じゃない。……速さと、一瞬で糸を焼き切る『属性』だ」

​一馬は集中した。作業台が青白い光を放ち、金属が飴細工のように形を変えていく。ラットの牙を核にし、そこに魔石の粉末を均一に練り込んだ「魔導合金」が形成されていく。

​『クラフト完了:対蜘蛛用・魔導刺突針(ニードル・バール)』

説明:レベル2の錬成機能で作られた初の精製品。先端に微弱な熱エネルギーを蓄積する機構を持ち、粘着性の糸を焼き切りながら貫通します。

​一馬は、天井から無数の白い糸が垂れ下がる「蜘蛛の営巣地」の入り口に立っていた。

以前はキノコを盗むのが精一杯だった場所だ。だが、今日は違う。

​「……鑑定。熱源を特定してくれ」

​『頭上、及び岩の隙間に計4体。主個体は奥の天井です』

​一馬が一歩踏み出すと、察知したケーブ・スパイダーが素早く糸を吐き出した。

粘着性の高い、絡みつけば逃れられない死の縄。しかし、一馬は冷静に「ニードル・バール」を突き出した。

​ジュッ、と短い蒸発音が響く。

バールの先端に練り込まれた魔石が、一馬の微かな魔力を熱に変え、触れた瞬間に糸を焼き切ったのだ。

​「いける……!」

​一馬は加速した。レベル2になったことで足腰のバネが増し、以前なら間に合わなかった距離を詰められる。

壁を蹴り、驚愕して身を引こうとする蜘蛛の眉間に、鋭い刺突を叩き込む。

​「はぁっ!」

​シュボッ、と肉の焼ける音と共に、バールの先端が蜘蛛の硬い外殻をバターのように貫いた。一撃。バネの反動に振り回されていた昨日とは違う、洗練された確実な手応え。

​次々と襲いかかる蜘蛛を、一馬は舞うような最小限の動きで仕留めていく。

最後の一体――天井に張り付いた一回り大きな主が飛びかかってきたが、一馬はそれを冷静に見上げ、バールの基部に仕込んだ予備の熱量を解放した。

​「終わりだ」

​閃光。

空中で焼かれた蜘蛛が地面に転がり、二度と動かなくなった。

​一馬は荒い息を吐きながら、熱を帯びたバールを見つめた。

非力なはずの自分が、知恵と技術で「捕食者」を圧倒した。その事実に、彼は静かな、しかし確信に満ちた喜びを感じていた。

​「……次の階層に行っても、俺は俺のやり方で進めるはずだ」

​一馬は、蜘蛛の死体から得られる「丈夫な糸」と「毒腺」を丁寧に回収し、自分だけの聖域へと引き返した。

​【現在のステータスと装備】

​■ パラメータ

​名前: 佐藤 一馬(24)

​種族: 人間(男)

​レベル: 2.05(↑ 0.05UP)

​称号: 境界の開拓者

​状態: 良好(自信の芽生え)

​■ 装備品

​武器: 魔導刺突針(ニードル・バール)

​(錬成機能で作成。先端に熱蓄積機構を備え、糸や外殻に対して高い貫通力を誇る)

​防具: 魔晶コーティング・プロ仕様手袋

​(熱による火傷を防ぐため、内側に断熱加工を追加)

​防具: アラミド繊維・インナー防護服

​(スパイダーの糸の粘着を無効化する「撥水粉末」を表面に塗布済み)

​道具: 魔晶石のランタン(改)

​(熱を感知する赤外線モードを試験的に実装)

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