第11話

一馬は、フリマアプリで辛うじて手にした売上金――命がけのポーションとポーチの対価である数千円を握りしめ、プロ向けの資材が並ぶ「ホームセンターPRO」の自動ドアをくぐった。

​店内には作業服姿の女性職人たちが闊歩し、一馬のような弱々しい体格の男は明らかに浮いている。だが、今の彼には彼女たちの軽蔑の視線よりも、目の前の棚に並ぶ「鉄の塊」の方が重要だった。

​「……これだ。これなら、俺の非力さを補えるかもしれない」

​一馬が手に取ったのは、建築現場で使われる強力な「高反発スプリング」と、無骨な「建築用高張力ボルト」だ。これにホームセンター特有の頑丈なステー(固定金具)をいくつか買い足した。

​アパートへ戻り、一馬は即座に【作業台】を起動した。

​「……バールの打撃力じゃ、ラットの急所を一撃で抜くには足りない。なら、『貫通力』を機械的に上乗せするしかない」

​【クラフト:バネ式刺突パイル(試作型)】

材料:刺突バール、高反発スプリング、高張力ボルト、ラットの牙(特大)

​【作業台】の光の中で、バールにスプリングが巻き付き、ボルトを軸にしたスライド機構が形成されていく。先端には、昨日よりもさらに鋭く研ぎ澄まされたラットの牙が、弾丸のようにセットされた。

​再び、一階層の静寂。

一馬の前には、二匹のスカベンジャー・ラットがこちらを伺っている。

​「……ふぅ、落ち着け。一発勝負だ」

​一馬は、改良したバールを両手でしっかりと構えた。

ラットが地面を蹴り、弾丸のように飛びかかってくる。一馬はそれを紙一重でかわすと、ラットの脇腹に向けてバールの先端を叩きつけた。

​「いけ……ッ!」

​ガチィィン! と、硬質な機械音が響く。

圧縮されていた高反発スプリングが解放され、ボルトに押し出された「牙」が、ラットの分厚い皮を貫通。内臓まで深々と突き刺さった。

​「ギャッ……!」

​断末魔と共にラットが地に伏す。しかし、その代償は大きかった。

「う、ぐっ……腕が……!」

​レベル1の貧弱な身体には、スプリングの反動はあまりに重い。バールを握る両手は激しく痺れ、骨が軋むような痛みが走る。それでも、一馬は顔を歪めながら、止まることなく次の一匹へ向かった。

​(痛いなんて言ってられない。俺は、もっと奥へ行きたいんだ……!)

​一馬は、一撃放つごとに腕の感覚を失いかけながらも、地道に、泥臭く、ラットを狩り続けた。

倒したラットは即座に【作業台】で分解。皮を剥ぎ、骨を削り、また自分の装備を補強する。

​――そんな「命の削り合い」を数週間繰り返した、ある日のことだった。

​頭の中に、これまでのどの音よりも澄んだ「音」が響いた。

​『累計経験値が規定値に到達。個体「佐藤一馬」:レベル 1 → 2』

​「……あ……」

​一馬は、その場に膝をついた。

劇的な強化はない。筋肉がムキムキになるわけでもない。

だが、肺に吸い込む空気の量が増え、バールを握る手の震えが、ほんの少しだけ止まった。

身体の芯に、細い一本の「鋼」が通ったような感覚。

​「レベル、2……」

​一馬は、血と泥に汚れた自分の手を見つめた。

才能も、国の保護も、恵まれた体格もない。

それでも、彼は自分自身の可能性を信じ、自力で「二歩目」を踏み出したのだ。

​【現在のステータスと装備】

​■ パラメータ

​名前: 佐藤 一馬(24)

​種族: 人間(男)

​レベル: 2(↑ 1.0UP)

​称号: 境界の開拓者

​状態: 筋肉痛(強)、疲労

​■ 装備品

​武器: バネ式刺突パイル(試作型)

​(バネの反動で牙を打ち込む。威力は高いが反動が凄まじい)

​防具: 魔晶コーティング・プロ仕様手袋

​(PROで購入した耐切創手袋を加工。反動による滑りを防止)

​防具: 厚手のデニム防護服(改)

​(ラットの毛皮を裏地に増設。防御力というよりはクッション性が向上)

​道具: 魔晶石の簡易ランタン(出力安定型)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る