第10話

一馬は、命がけで手に入れた「深層の露草キノコ」を机に並べた。青く発光するキノコは、ボロアパートの薄暗い室内で異質な存在感を放っている。

​「そのまま売れば2,000円……。でも、加工すればもっと跳ね上がるはずだ」

​一馬は【鑑定】のナビゲートを起動し、キノコの最適解を導き出した。

​『レシピ確認:初級回復ポーション。材料:露草キノコ、精製水、劣化魔晶石の粉末。

ナビ:【作業台】の抽出機能を使用し、不純物を99%除去することを推奨します。市販品は不純物が多く、魔力効率が15%程度ですが、あなたのスキルなら純度を高めることが可能です』

​「よし、やってやる」

​一馬は、スーパーで買った精製水と、ストックしていた魔石の粉末を作業領域へ投入した。

【作業台】が青白い光を放ち、キノコの繊維からエッセンスだけを抽出していく。通常、巨大なプラントや専門の錬金術師が行う工程を、一馬のスキルは瞬時に、そして極めて精密に代行した。

​出来上がったのは、透き通るようなエメラルドグリーンの液体が入った、小さなガラス瓶三本だ。

​『クラフト完了:高品質な初級回復ポーション。

説明:不純物が極限まで取り除かれた逸品。初級でありながら、中級に近い即効性を持ちます』

​「これなら……いけるか?」

​一馬は、匿名のフリマアカウントに「個人製作の練習品」として、一本5,000円で出品した。ポーチの時とは違い、出品からわずか十分で、三本すべてが即決で完売した。

​数日後。

一馬が銀行口座を確認すると、手数料を引いても一万円以上の利益が振り込まれていた。

「やった……! これで、まともな食料と、もっと強い防具の材料が買える!」

​歓喜する一馬だったが、彼はまだ気づいていなかった。

彼が「練習品」として放流したそのポーションが、ネット上の探索者たちの間で、静かな、しかし確実な波紋を呼んでいることに。

​【スレタイ】フリマで売ってる謎のポーションについて語るスレ

​1 名無しの探索者

最近フリマアプリで出回ってる「練習品」って名前の初級ポーション使った奴おる?

安かったから買ってみたんだけど、これヤバくないか?

​2 名無しの探索者

あー、あのエメラルド色のやつだろ?見た。

怪しすぎてスルーしたわ。個人製作とか怖くて口に入れられん。

​3 名無しの探索者

いや、うち買ったわ。

昨日ダンジョンで腕ザックリいかれた時に飲んだんだけど、

一瞬で血が止まって、五分後には傷が塞がってた。

初級の効き目じゃないぞこれ。

​4 名無しの探索者

​3

盛りすぎだろw

初級ポーションなんて気休めだぞ。中級の間違いじゃないの?

​5 名無しの探索者

私も買った。

鑑定スキルのある友達に見せたら「魔力純度が異常に高い。

大手の製薬ギルドの特注品レベル」って驚いてた。

出品者、何者?

​6 名無しの探索者

昨日からチェックしてるけど、出品されると数秒で完売するんだよな。

専属の転売ヤーがついてるっぽい。

​7 名無しの探索者

「佐藤」って名前の出品者だろ?

プロフィールの説明文がめちゃくちゃ素人っぽいんだよな。

「頑張って作りました」とか書いてあって草生える。

​8 名無しの探索者

​7

その「頑張りました」の結果が、大手ギルドをぶち抜く品質とか皮肉すぎるだろw

どっかの隠居した凄腕錬金術師の婆さんじゃないか?

​9 名無しの探索者

あるいは、未発見の採取ポイントを知ってる可能性。

露草キノコであの色は出ない。もっと上位の素材を混ぜてるはず。

​10 名無しの探索者

次回の出品、誰か解析してくれ。

もしこれ量産されたら、ポーション市場の相場ひっくり返るぞ。

​11 名無しの探索者

というか、

変なところで技術力高すぎて不気味なんだよ。

ダンジョン省が目をつける前に買っておいた方がいいかもな。

​一馬はスマホでスレッドを見つけ、顔の血の気が引いていくのを感じた。

​「……目立ちすぎたか?」

​単なる「小銭稼ぎ」のつもりが、彼の並外れたスキルは、図らずも世界の常識を揺るがし始めていた。

女性優位の社会において、無名の「男」が作った薬が、プロの探索者たちを騒がせている。

この噂が現実の脅威となって一馬に襲いかかるまで、そう長くはかからないだろう。

​「……もっと慎重に、でも、もっと強くならなきゃ」

​一馬は恐怖を飲み込み、より深い暗闇へ潜る決意を固めた。

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