便器への余韻

あの日から数日後。

俺は再び、普通のベッドで目を覚ました。

だが、頭の奥にはまだ、便槽生活の感触が残っている。水の冷たさ、ぽちゃんと落ちる音、うんこの漂う波紋、そして女性が驚いて家を飛び出していったあの瞬間。

職場のデスクに座り、コーヒーをすする。周りの同僚は普通に仕事をしている。誰も便槽の中で数日を過ごした俺のことなど知らない。

――知るわけない。そんなこと、普通の人間に説明できるはずがない。

スマホを見ると、ニュースでは近所の小さな家で通報があり、警察が調べに入ったという情報だけが淡々と流れている。

俺は画面を見つめながら、微かに笑った。

――そう、俺そこにいたんだよな…。

奇妙なことに、あの日の便槽の感触は、現実に戻った今でも頭にくっきり残っている。

足の感覚、水の抵抗、ぽちゃんと落ちる何かの音。

日常に戻ったつもりでも、俺の心はまだあの便槽にある。

机に置いたコーヒーカップを手に取り、思わず呟く。

「次はどこの便槽にはいるのかな…」

もちろん、声には出さなかった。誰も聞いてはいない。

だが、心の中で響くそのつぶやきは、便槽の中の水面の波紋のように、静かに揺れ続ける。

――便槽ライフは終わったのか、終わっていないのか。

誰も知らない。

俺だけが、あの奇妙でシュールな日々を知っているのだ。

窓の外では、普通の街の音が流れている。

だが、俺の中ではまだ、ぽちゃん、ぽちゃん、と便槽の中の非日常が揺れ続けていた。

そして、思った。

――まあ、悪くない一週間だったな、と。

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