便槽の中で迎えた朝
夜が明けた。
俺はまだ便槽の中で、頭を水面にちょこんと出しながら目を覚ました。
昨日、ついに女性と対面したはずだった。…はずだったのだが、彼女は一瞬で俺を見て、叫びながら家を飛び出していった。
いや、理解できる。びしょ濡れの大人が便槽から顔を出している光景を冷静に受け止められる人間はいない。
静まり返った家の中に、水面の波紋だけがぽちゃん、ぽちゃんと揺れている。
俺はため息をついた。
――今日も便槽生活か…いや、まだサバイバルは続くんだな。
だが、午前中になると、便槽の外で急に声が響き渡った。
「こちらは警察です!家の中に人がいるという通報を受けました!」
俺は頭を抱える。
便槽の中で必死に体を沈め、水面からなるべく顔を出さないようにする。
「いや、これは誤解だ!ただの…サバイバルだ!」
しかし声は屋外に響くだけで、誰も聞く耳を持たない。
警察が玄関に入り、家の中を調べ始める。俺は便槽の中で息をひそめる。水の中の体は冷たいが、心臓はバクバクしている。
すると、玄関のドアが勢いよく開き、女性の声が遠くから聞こえる。
「便器のなかに、男性が!」
警察は目を丸くし、家中を見渡す。俺は便槽の中で自分の運命を考える。
――もう助けてもらうしかない。だが、助けてもらったら、このシュールな便槽生活も終わってしまう。
「そこに人がいるんですね!出てきてください!」
俺は渋々、便槽の中から手を伸ばす。水が腕を冷たく包む。
ぽちゃん、と水面が揺れる。警察は目を見開き、女性は顔を隠す。
便槽から這い上がった俺は、水でぐしょぐしょの体を震わせながら立ち上がる。
――便槽ライフは終わった。
だが、心の中には奇妙な満足感があった。あんなシュールな非日常を生き延びたのだ。
水滴が床に落ちる音がぽちゃん、ぽちゃんと響く。
俺は微笑み、背筋を伸ばした。
――次はどこに入ろうかな
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