三日目
三日目の朝、俺はまだ便槽の中で目覚めた。
いや、目覚めたというか、もはや便槽が自分のベッドみたいな感覚になりつつある。
水は冷たく、やっぱり半分くらいまで満ちている。顔を上げると、昨日よりちょっと水面に浮かぶうんこが多い気がする。いや、多分気のせいだろう…と自分に言い聞かせる。
数日も便槽にいると、生活のリズムも少しずつ変わってくる。朝起きて、顔を洗うつもりで水をかき回す。朝ごはんは…まあ、水の中で食べるわけにはいかないから、ひもじさを便槽の中で感じながらも、ちょっとした想像で満腹感を演出する。
「お、今日はカレーライス気分だな…」と、便槽内で一人ごちる俺。シュールすぎて自分でも笑う。
そして、水面をぼんやり見ていると、また「ぽちゃん、ぽちゃん」と落ちてくる。
――昨日より動きが活発になったな、誰か遊んでるのか?
水面の波紋を観察していると、なんだか便槽の中の世界がミニチュアの水族館みたいに見えてきた。うんこは水槽の魚、俺はその水族館の飼育員、みたいな感覚だ。
もちろん、便槽生活にも問題はある。水に浸かりっぱなしなので体が冷えてくるし、背中はジンジンしてくる。便槽の中で寝返りもできない。
三日目になると、ちょっとした日課も生まれた。
水の温度を確認する
便槽内のうんこの動きを観察する
小さな水面の波紋で即席の影絵遊びをする
そしてついに、便槽の中で俺は水泳技の練習まで始めた。狭い便槽でもバタ足を繰り返すと、意外と全身運動になる。隣に流れ込むトイレットペーパーの芯にぶつかると、思わず笑ってしまう。
便槽の外界との接触はほとんどない。唯一の情報源は、時折落ちてくる「ぽちゃん音」と、水面に映る光の揺らぎ。
「これでニュースでも見れたら、完全に便槽の中の孤島生活だな…」と呟くと、ぽちゃん、と水がはねる。
――いや、便槽は返事してくれないけど、確かに俺の心を少し和ませてくれる。
三日目の夜、俺は便槽の中で天井を見上げながら思った。
――今日も無事に過ごせたな。明日も無事に過ごせるだろう。便槽生活、悪くない。いや、決して快適ではないけど、少なくとも刺激はある。
水面に浮かぶ自分の顔は、びしょ濡れで髪ぐちゃぐちゃ。困惑と笑いが半分ずつ混じった表情で、俺は小さくつぶやいた。
「便槽ライフ、意外と悪くないな…」
そして、また「ぽちゃん」と何かが落ちてくる。
――明日も、笑える一日になりそうだ。
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