第16話:汎用魔導の限界と枯れゆく恩恵

 賢者の国オグボンの辺境、樹海都市エウェ 。  ここでは魔法を用いた薬草や果樹の栽培が人々の暮らしを支えているが 、今、この地はかつてない危機に瀕していた。

「土壌魔力、異常なし。日照量、規定値。散水周期、マニュアル通り……なのに、どうして……っ!」

 冒険者ギルド「タウィ」の地方支部で働くニキは、枯れ果てた薬草園の前に立ち尽くしていた 。  彼女は魔術学院を全教科「良」という、この国では珍しいほどバランスの取れた成績で卒業した「優等生」だ 。  攻撃、治癒、付与、農耕――あらゆる魔導の基礎を修めた彼女は、多角的な視点でこの異変に挑んでいた。

「土の栄養、水の流れ、魔力の循環……すべてを加味して計算しているのに、答えが出ない……。これじゃ、来月の出荷は全滅よ……」

 周囲の農民たちは、期待と不安の混じった視線を彼女に送っている。  彼女は、エリートが嫌がる泥臭い現場仕事も、教科書通りの「勤勉さ」で一つひとつ丁寧にこなしてきた。  だが、今の事態は、彼女が学んできた「すべての知識の平均値」では太刀打ちできない「一点の歪み」によって起きていた。

(教科書にある解決法は全部試した。他者の調和も、再現性の確保も完璧なはずなのに……)

 ニキの頬を涙が伝う。  彼女は「すべてを平均的にこなせる」からこそ、何が本当の「正解」なのかを見失い、膨大な情報の海で溺れていた。

 そんな彼女の前に、一人の旅人が現れた。

「……随分と熱心に土と会話してるんだな」

 カイトだった。  彼の「瞳」には、この土地の下を流れる龍脈(ムシパ)が、ある一点で奇妙な不協和音を奏でているのが視えていた 。

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