第14話:世界の拍動と真実の波形

 オサマレの隅にある、湿った地下室。  そこがアキリの「研究所」だった。

「……君か。さっきの旅人さんは」

 アキリは、カイトが差し出した保存食を受け取り、力なく笑った。  部屋の中は、手作りの観測機器で溢れている。  どれも「再現性がない」と学院に捨てられた、一点特化の試作品ばかりだ。

「20年の定点観測。……あんた、本気で言ってるのか?」

「ああ。龍脈(ムシパ)は生き物なんだ 。教科書には『一定の流動』と書いてあるが、実は季節や月の満ち欠け、果ては人々の感情の揺れでも、微細に波形を変える。……僕は、それを証明したいだけなんだ」

 アキリの瞳には、狂気にも似た勤勉さが宿っていた。  カイトはそっと、部屋の中央にある巨大な観測石に触れた。

『ロジック・トレーサー(構造追跡)』、起動 。

(……凄まじいな。20年分の観測データが、この石に残留ログとして刻まれている 。だが……この世界の人間の知覚じゃ、この深層の揺れは読み取れない)

 カイトは確信した。  自分の持つ権能『シンクロ(世界同調)』を、さらに一段階、深く潜らせる必要があると 。

(今までは世界の『平均』に合わせていた。……だが、もし。この世界のエネルギーそのもの、光や音を超えた『波長』に、俺の感覚を直接同期(ハック)させたら?)

 カイトは目を閉じ、意識を世界の根源へと沈めた。  心拍を落とし、大気の密度、魔力の流れ、地殻の震え……そのすべてを、一つの「波」として捉え直す。

(……視える)

 カイトの視界が、青白い光の奔流に染まった。  それは可視光を超えた、魔力の振動波形だ。  龍脈が地中を流れる音が、重低音の鼓動として脳内に響く。

「――っ! アキリ、これを見ろ!」

 カイトはアキリの観測装置に手をかざした。  自らが今捉えている「深層振動」のアルゴリズムを、装置の術式に直接流し込む。 『ロジック・ハック』 。

 ガタガタと音を立てていた装置が、一瞬で静まり返った。  そして、滑らかな光の線を描き始める。

「な、なんだ、この波形は……!? 美しい……。教科書にある理想的な正弦波じゃない。もっと複雑で、力強い、世界の本当の声だ!」

 アキリは叫んだ。  彼が20年間、霧の中で探し続けていた答えが、そこにあった。

 だが、その光の線は、ある一点で不自然な「歪み」を見せていた。

「……待て。この周期的なノイズ。地下300メートル……オサマレの中央塔の真下で、魔力が逆流している。これは……」

「『ヴィリオ(魔力溜まり)』だ 。それも、今までのどの記録にもないほど巨大な塊が、急速に肥大化している」

 カイトの「瞳」には視えていた。  世界の血管が詰まり、漆黒の「ルル(魔核真珠)」が今まさに生まれようとしている様が 。

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