第三章:辺境の再会と愛の因果 第10話 絶望の村と死線を裂く一閃

聖都ムリンゴから西へ。深い森の奥にひっそりと佇む辺境の村・マヨ。

 そこは今、阿鼻叫喚の地獄へと変じつつあった。

 魔王は去った。だが、主(あるじ)を失い狂暴化した魔王軍の残党――シェタニと呼ばれる魔族たちが、飢えを満たすためにこの村を包囲したのだ。

「いやあああああ! 助けて、誰かぁ!」

 村の広場。燃え盛る家々の前で、サリアは腰を抜かしていた。

 目の前には、三メートルを超える巨躯を誇る大牙鬼(オーク)が、涎を垂らしながら巨大な鉄の棍棒を振り上げている。

 周囲には、彼女を守ろうとして倒れた自警団の若者たちが、血の海に沈んでいた。その中には、今朝まで「収穫が終わったらお祭りにいこう」と笑い合っていた隣の少年の姿もある。 彼らの勇気も、未来への約束も、オークの無慈悲な棍棒によって等しく肉塊へと変えられてしまった。 自分の番が来る。死を覚悟し、サリアが強く目を閉じた 。

 ――キィィィィィン……!

 鼓膜を劈(つんざ)くような鋭い金属音が響いた。

 サリアが恐る恐る目を開けると、そこには、時代遅れの質素なチュニックを纏った背中があった。

「……力任せな一撃だな。重心が浮いてるぜ」

 カイトは、オークが渾身の力で振り下ろした棍棒を、聖剣の「面」で受け流していた。

 単に受け止めたのではない。

 棍棒の軌道に沿って剣を滑らせ、その破壊的な威力を地面へと逃がしたのだ。

 「受け流し(パリィ)」――スキルに頼らない、数多の戦場を潜り抜けてきた経験だけが可能にする極限の技。

 オークが自身の力で体勢を崩した一瞬。

 カイトは最小限の踏み込みで、オークの懐へと滑り込んだ。

「あ……」

 サリアが声を漏らす間もなかった。

 閃光。

 カイトの抜刀術が、オークの首を一文字に裂く。

 巨躯が断末魔を上げる暇もなく、噴水のように血を吐いて沈んだ。

「大丈夫か、お嬢さん。……遅くなってすまない」

 カイトが振り返る。

 返り血を浴びることなく、涼しげな顔で佇むその姿。

 サリアの心臓は、恐怖とは別の、激しい鼓動を打ち始めた。

「あ……ありがとうございます……っ! あの、村の皆が……あっちの倉庫にも!」

「分かってる。……一匹も残さず片付けてやる。あんたはここで、怪我人の手当てをしててくれ」

 カイトはそれだけ言い残すと、疾風の如く駆け出した。

 ここからが、英雄の本領発揮だ。

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