第8話 正義の仮面と、積み重なる絶望
翌朝。ムチの広場には、異様な緊張感が漂っていた。
中央には巨大な断頭台。上座には、王都から派遣された巡察使、ヴァリス伯爵が鎮座していた。
復興官デブドは、胸を張って聴衆に呼びかけた。
「皆の者! 本日処刑されるこの贼は、復興予算を盗もうとしただけでなく、我が国の『戦後特別復興法』に違反し、聖なる水路の建設を妨害した大罪人である!」
デブドが読み上げる「罪状」は、司法上、完璧に正当化されていた。
「証拠はこの空箱と、執務室への侵入の事実。彼は『救世主カイト』の名を騙り、人心を惑わし、復興を遅らせようとした。これは新王への反逆であり、法秩序に対する冒涜である!」
ヴァリス伯爵も、提示された偽造帳簿(デブドが用意した完璧な「白」の帳簿)を見て、深く頷いた。
「法に照らせば、死罪は免れんな。……秩序を乱す者は、たとえどんな理由があろうと許されぬ」
民衆は絶望し、俯いた。
エレナは地面に膝を突き、右手の指輪を、指が白くなるほど握り締めて泣き叫んでいた 。
「法律が、弱者を殺すための刃だというのですか!? 神様は、カイト様は……こんな残酷な正義を望まれてはいないはずです!」
彼女の必死の訴えに対し、ヴァリス伯爵は冷徹な視線を向けるだけだった 。
「黙れ、女。法の秩序を乱す愛など、この国には一欠片の価値もない」
彼女の祈りは、豪華な天幕の中で笑う汚職役人たちの声にかき消されていく。
カイトは無言で、断頭台へと登らされる。
デブドは勝利を確信し、カイトの耳元で囁いた。
「……ククク。残念だったな、おじさん。正義も法律も、俺が書くものなんだよ。お前が掴んだはずの『裏帳簿』なんて、この世には存在しない。全部灰にしてやったからな」
「……そうか。あんたの中じゃ、そうなんだろうな」
カイトは不敵に笑った。
「処刑せよ!」
デブドの合図で、重い刃が落下した。
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