第3話 自由への越境
翌日。謁見の間には、重苦しいほどの緊張感が漂っていた 。玉座に座る国王 。その左右には、覚悟を決めたようなリリアーネ様とアレク 。そして、俺の動向を注視する貴族たちが並んでいた 。
「英雄カイトよ。……改めて、その功績を讃えよう。約束通り、リリアーネとの婚約を認め、貴殿を次期国王として迎え入れる。これに異論のある者は、この場にはおらぬ」
国王の言葉に、貴族たちが深々と頭を下げる 。俺は不敵な笑みを浮かべ、一歩前へ出た 。
「陛下。……婚約の前に、一つだけ、褒章として頂きたいものがあります」 「ほう? 何なりと申せ」 「……この国の、『王位』そのものを頂きたい。数分間だけでいい。今この場で、この国の全権を俺に譲ってください」
一瞬、場が凍りついた 。「何だと!?」「簒奪のつもりか!」と、あちこちで貴族たちが騒ぎ出し、アレクも驚愕に目を見開いている 。
俺はそれらを無視し、少しだけ「覇気」を解放した 。
ズゥゥゥン……!
物理的な重圧に、衛兵たちが床に這いつくばる 。国王もその威圧感に気圧され、額に汗を浮かべながら頷いた 。
「……分かった。これより数刻、エンデレザの全権を英雄カイトに委任する!」
国王の震える声での宣言 。俺はゆっくりと玉座の階段を登り、その最上段に立った 。そして、絶望に目を見開いているリリアーネ様と、悔しさに顔を歪めるアレクの前に立つ 。
「王としての、最初で最後の命令を下す!」
俺は、戸惑う二人の手を掴み、無理やり一つに重ねさせた 。
「王女リリアーネと、聖騎士団長アレク。両名の婚姻を、今この瞬間に承認する! そして俺は今、王位を継承権第二位のアレクに譲り――これをもって即座に退位する!」
「……は?」
誰かが、間抜けな声を漏らした 。リリアーネ様は信じられないものを見るように俺を見つめ、アレクは呆然と立ち尽くしている 。貴族たちも、何が起きたのか理解できず、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まっていた 。
「カ、カイト殿……何を、仰っているのですか!? 貴方は世界を救ったのですよ!? なぜ……!」 「アレク、お前ならこの国を任せられる。リリアーネ様、あんたはこいつの隣にいる時が一番いい顔をしてるんだ。……俺みたいな『戦うだけの男』には、王座は狭すぎるのさ」
俺は呆然とする一同を尻目に、国王に向き直った 。
「……何と欲のない男か。よかろう。貴殿こそが、真の意味で我が国の救世主だ。ならば、これを授けよう」
国王が震える手で取り出したのは、黄金の光粒子を放つ、見たこともないほど精緻な紋章だった 。それを見た瞬間、周囲の貴族たちが「ひっ……!」と短く悲鳴を上げ、さっき以上の勢いで床に額を擦り付けた 。
聖王国の至宝、 【聖遺印・エターナル・エンデレザ】 。大陸最大の食糧生産国の「最上級国賓」であり、王と同等の権限を持つことを示す、国家最高の証である 。だが、そんな凄まじい価値など知らない俺は、それをヒョイと受け取ると、適当に懐へ放り込んだ 。
「へえ、キラキラしてていいっすね。……これ、関所とかスムーズに通れるんですよね? ありがたく使わせてもらいますわ」 「カ、カイト殿……! それは単なるパスなどではなく、我が国の……!」 「はいはい、分かってますって。じゃあな、みんな! 俺はまだ見ぬ困っている奴らを救いにいくわ!」
俺は驚愕と感謝が入り混じった叫び声を背に、窓から飛び降りた 。城門を抜ける時、バラカ、モト、ファラジの三人が待っていた 。
「おい、カイト! お前、本当にとんでもないものを貰っていったな!」 「……君の無頓着さは、時に魔法よりも恐ろしいよ。だが、計算外に痛快だ」 「カイト殿。あなたの伝説は、今日から新たな章を刻むことになりますな」
俺は彼らに手を振り、真っ青な空へと歩き出した 。懐には、最高の通行手形 。体には、魔王を屠った最強の力 。
重苦しい責任も、退屈な執務も、全部放り出してやった 。俺の、俺による、俺のための新しい冒険が、今ここから始まるんだ 。
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